バブル崩壊後の低迷する日本を生きてきた"ゆとり世代”。
諸説あるものの、現在の20代がこの世代に当たるとされる。
仕事も恋も、何もかもが面倒くさい。報われる保証もないのに、頑張る意味がわからない。
−頑張れば報われるって...それ、昔の話でしょ?−
外資系コンサルティングファームに勤める瑞希(26歳)も、まさに典型的な“ゆとり”の価値観を持っている。
東京を生きるゆとり世代の、リアルな仕事・恋愛・人生観を覗いてみよう。
恵まれているのは、どっち?
「いやぁ君たちの世代は本当、恵まれてるよね。僕が君たちくらいの時はさ、データとか全部、図書館まで探しに行って手書きで写したりしてたんだよ?
それに比べて今は、クリック1つで何でもダウンロード出来るもんなぁ」
プロジェクトが一段落したからと、今夜は『ベンジャミン ステーキハウス 六本木』で上司がチームディナーを開催してくれている。
上野瑞希は六本木にオフィスを構える大手外資系コンサルティングファームに勤める26歳。
親の仕事の関係で高校から大学までをロンドンで過ごし、就職を期に何年かぶりに東京に戻ってきた。
いくつもの内定を手にした中でこの会社を選んだのは、単純に条件が最も良かったから。別に、夢があるわけじゃない。
「へぇー、大変でしたね!今って本当に便利な時代なんですね!」
上司の言葉に瑞希は目を丸くしてみせるが、その意識の大半は、今まさに口に運ばんとするテンダーロインの一切れに向けられている。
外はカリッ、中はしっとりという、ステーキの王道スタイルで仕上げられた一切れは、噛み締めると濃縮した旨味を口の中に広がらせた。
―資料の複写なんかが仕事って認めてもらえる時代は、良かったよね。
うっとりと口の中の一切れに意識を集中させながらも、瑞希は考える。
AI、IoT、ビッグデータ...
テクノロジーの発展は、現代人の生産性を大きく引き上げた反面、“人間がやるべき仕事”を浮き彫りにした。
こつこつ・地道に・根気よく・正確に、といった仕事は、今までのようには評価されない。
本当に賢いか、特殊な技能を持った人だけが、世の中に存在価値を認められる時代だ。
“30代までの頑張りがその後の人生を決める”とはよく言うが、だとしたら、目の前の上司はもう“人生決まっている”のだろうか。
―いいよなぁ、この人はもう、残りの人生“安泰”だもんなぁ。
上機嫌でグラスを傾ける上司にちらと目をやりながら、瑞希は小さくため息をついた。
この記事へのコメント
食べたい物を食べ、着たいものを着て、地味ーに遊ぶ。とても共感できる。