容姿、学歴、収入。男のスペックは高ければ高いほど良い。
が、同じだけのスペックを女が持ち合わせたとき、果たしてそれは本当に幸せなのだろうか。
東京にはある一定数、女ながらも男並みの「ハイスペック」に恵まれた層が存在する。
傍から見れば完璧な彼女達には、ハイスペックであるが故の葛藤があった。
「おう高野、お前土曜の夜『キッサコ』居ただろ?」
月曜朝の8時、オフィス内のカフェでコーヒーを注文していると、楓は後ろから先輩に話しかけられた。
「あれ、先輩もいらしてたんですか?1杯だけ寄りましたけど、気付きませんでした、声かけてくださいよ」
「いや、高野が珍しくばっちり化粧してるからデートかなと思って。邪魔しちゃ悪いと思ってさ」
高野楓、24歳。
東京大学を卒業後、新卒で世界最大手の外資系証券会社に入社した、いわゆるバリキャリ女子だ。
ー見られてたんだ、嫌だな……。
口では「声かけてくださいよ」と言いながらも、本心は全く逆だ。
毎日オフィスで顔を合わせている会社の人に、プライベートでも会いたい訳がない。
何より仕事中は、ほぼすっぴんに色気も何もない無難なパンツスーツという恰好で毎日過ごしているだけに、たまに女らしく装っているところを目撃されるのは、何とも居心地が悪い。
とはいえ楓の勤める外資系証券会社では、ほとんどの社員がオフィスから徒歩5分圏内に住んでいるため、会社の外でも近所での遭遇率は非常に高い。
「やめてくださいよー。ご存知の通りその日もおひとりさまでした」
「だよなあ、お前本当男っ気無いもんな。いい加減もうちょっと女子力磨いて男でも作ったほうが良いんじゃないの?」
ー出た「女子力」。余計なお世話です。
心配されずとも別に、女子力が無いわけではない。ただ職場で見せていないだけだ、と楓は心で毒づく。
そもそも「女子力」なんて、ここ外銀という環境では、出した方が損ではないか。
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