SPECIAL TALK Vol.31

~20歳代で年俸1億も現実のものに。これからの日本は、もっと若者にチャンスを与えるべき~

数々の企業プロジェクトをこなす東大でも異質の研究室

金丸:高校卒業後は、東京大学工学部電子情報工学科に進学されています。

松尾:コンピュータはまだまだ未開拓の領域がたくさんあって、大きな可能性を感じていたので迷わず選びました。この分野で勝負しようと。

金丸:じゃあ、初めから研究者になろうと決めていたんですね。

松尾:そうですね。父からも「お前は研究者向きの性格だな」と言われていましたし、わりと早いうちからそのイメージはありました。

金丸:世間ではAIは社会をどう変えるのか、AIは人間の敵か味方かという議論が多いように思いますが、松尾先生はどのようにお考えですか?

松尾:私はそういう議論よりも、AIを使ってお金を稼いでいきましょう、と言いたいです。

金丸:先生のそういうところが、普通の大学教授と違うところですよね。

松尾:大学の研究というのは、社会に役立ってこそだと思うんです。私は大学院を卒業後、産業技術総合研究所に就職しました。AIで非常に著名な研究者がいらしたので、その方のもとで3年半過ごしたあと、海外特別研究員という制度を使ってアメリカのスタンフォード大学に2年間留学しました。そこで痛感したのが、大学での研究や技術をベースに事業を興していかなければ、いくら研究をしても意味がないということ。とりわけ情報の分野は、その考えが強いと感じました。

金丸:グーグルがいい例だと思います。研究とビジネスとが直結している。

松尾:だから日本に戻ってきてすぐ、ベンチャー企業を立ち上げたんです。外国投資信託のヘッジファンドとかクラウドファンディングサービスなどです。

金丸:有言実行ですね。

松尾:でも会社を作って思い知りました。私のような研究者というのは、モチベーションを自分で作り出す生き物なので、人を元気づけるとか励ますとかしないんです。だから部下が何か失敗したときに「できないのは、お前が悪い」って平気で言っちゃう。そんな調子だと、いくら頑張っても会社経営がうまくいくわけがなく……。自分の限界を痛感しました。

金丸:研究者と経営者とでは、必要な資質が異なりますから。

松尾:なので、私は企業を一から大きくした人は、本当にすごいなと思います。心から尊敬します。起業家の方たちのおかげで社会が成り立っているわけだし、研究者も生かされている。だからこそ、ビジネスに役立つ研究をしようと強く思うようになりました。それで2011年ぐらいから、国から研究費をもらうことをやめたんです。企業が出資してくれるお金で研究を続けていこうと。

金丸:すごい覚悟ですよね。でも大変だったでしょう。企業はどうしても投資対効果を求めます。

松尾:最初は本当に大変でした。やはり出資してもらった企業の様々な要望に応えなければならないので。でも学びが多かったです。大学の研究室というのは、自分が解きたい問題を解いたら満足しがちなんですけど、企業だとそうはいかない。顧客が解決したい問題は何か、社会が抱えている課題は何かを見定めて、それに対してちゃんとソリューションを提供することが求められます。そういうことを意識し始めてから、出資額が次第に増えていきました。今では、コンサルティングファーム出身のスタッフもいるんですよ。

金丸:もはや研究室じゃなくて企業ですね。でも研究室という位置づけだと、スタッフは学生なんですか?

松尾:基本的には学生です。人手が足りないので、研究室以外からも学生をリクルートしています。学生はジュニア、シニア、マネージャーという3つの階級に分かれていて、フルタイムで働くと、年収800万円ぐらい稼げます。

金丸:えっ! そんな研究室、聞いたことないですよ。

松尾:ここまでビジネスライクな研究室は、ほかにないですから(笑)。ディープラーニングというのはいまホットな分野なので、企業側もできる限り投資したいんだと思います。5年後、10年後には事業の柱となっている可能性があるので。

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