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2020年のニューリーダーたちに告ぐ
最近話題となっている「人工知能(AI)」。なかでも、いま最も注目を浴びているのが、ディープラーニングといわれる新技術だ。これは、脳神経回路に近いアルゴリズムをコンピュータで実現し、データ分析を行うもので、ここ数年の間に技術が飛躍的に進歩した。
そんなディープラーニングの第一人者が、東京大学大学院工学系研究科特任准教授の松尾 豊氏だ。
最先端の研究を進める一方、日本の産業競争力を高めるために、企業との共同研究やベンチャー支援を精力的に行い、ビジネスの可能性を模索し続けている。人工知能に魅せられた松尾准教授の半生から、次代を生き抜くヒントを探る。
金丸:お忙しいなか、お越しいただきありがとうございます。今日は六本木に今年3月オープンした『ビフテキのカワムラ 六本木店』をご用意しました。こちらは神戸に本店があって、銀座にもお店があるんですが、とにかく予約が取れないんですよ。
松尾:そうなんですか。そんなお店にお招きいただき、ありがとうございます。最高級の神戸牛が味わえると聞いて、楽しみにしてきました。
金丸:松尾先生のご専門は、人工知能(Artificial Intelligence、以下AI)です。ここ最近、AIのニュースを聞かない日はありませんし、先生のことはメディアでもよく拝見しています。
松尾:ありがとうございます。
金丸:先生とは経済産業省のプロジェクトでご一緒しています。いまAIのなかでも、ディープラーニングという新しい技術が注目されていますが、どういうものなのか簡単に教えていただけますか?
松尾:ディープラーニングとは、人間の脳の神経回路をまねた「ニューラルネットワーク」を使って、人間の脳と同じような情報処理を行う技術です。これまでコンピュータに画像を認識させるには、たとえばネコなら「目が丸い」「耳がとがっている」というようなネコの特徴を人間が入力しなければなりませんでした。それがディープラーニングの技術により、コンピュータに大量の画像データを読み込ませることで、コンピュータ自らが学習し、その特徴を見出せるようになりました。
金丸:画期的な技術ですね。
松尾:そうですね。画像認識の精度は、すでに人間の能力を超えています。AIの研究って、実は1950年代に始まったんですけど、その60年以上の歴史のなかでも大きなブレークスルーで、ビジネスや社会の在り方が大きく変わるだろうといわれています。
金丸:いまやどの企業もAIをビジネスに活用して、イノベーションを起こそうと模索しています。今日はそのあたりを含めて、伺っていきたいと思います。
ポケコンに出合い、パソコンの世界にのめり込んだ小学校時代
金丸:まず、お生まれはどちらですか?
松尾:香川県の坂出市という瀬戸内海に面した町です。
金丸:子どもの頃から、やはり理系に興味があったのですか?
松尾:そうですね。小さい頃は、よくレゴブロックで遊んだり、絵を描いたりしていました。3人きょうだいの真ん中で、上は兄、下は妹だったので、いい感じにほっとかれまして。
金丸:真ん中だと大概そうですよね。とくに下が女の子だと(笑)。
松尾:ですよね。でもそれでよかったです。勝手に遊んでましたから(笑)。あと小学生のときは理科や科学が得意で、電気系の回路に興味がありました。
金丸:ご両親は何をされていたのですか?
松尾:父は産婦人科の開業医です。母は専業主婦ですが、もともとは高校の物理の教師をしていました。
金丸:やはり理系一家なんですね。そうすると、コンピュータとの出合いも早かったんじゃないですか?
松尾:小学校5年生のときに、両親から「ポケコン」っていう携帯用の小型コンピュータをプレゼントしてもらいました。
金丸:ポケット・コンピュータ、略してポケコン。懐かしいですね。当時は工業高校の教材としてよく使われてて。
松尾:本に書いてある通りにプログラムを書くと、その通りに動くのが面白くて、どんどんハマっていきました。お小遣いでパソコン専門誌を買ってきて、例題を解いては投稿していましたよ。
金丸:投稿もしていたんですか?
松尾:はい。いまでも覚えている例題があって、「試験の科目ごとに平均点が違う場合の補正プログラムを作れ」というものなんですけど、まだ小5で関数を知らないから、唯一知っている正比例と反比例を使ったらできるんじゃないかと思って、反比例をベースに補正する曲線を作るプログラムを書いて送ったんです。そしたら佳作に選ばれて、雑誌に名前が載りました。すごくうれしかったですね。
金丸:よく反比例だけで書けましたね。片鱗がうかがえます。