軽井沢の冬 Vol.7

軽井沢の冬:1%の可能性が妻のプライド…真実がいつも正しいわけじゃない。

仕事でも恋愛でも、常に勝ち負けを意識し戦闘態勢を崩せない東京人たち。

人生の冬を迎え、心が渇いてしまったら、東京から1時間のオアシス・軽井沢で己を見つめ直すと良いかもしれない。

軽井沢で、東京人たちを出迎えもてなしてくれる女性がいる。美希、35歳。

これまで加奈正輝が美希の元で心の平穏を取り戻したが、今度は美希自身に夫・誠司の浮気発覚という事件が発生。

律子のアドバイスで、誠司との関係修復を図る美希だったが…?


このまま何もなかったことにするつもり?


土曜日。軽井沢・南ヶ丘の自宅で美希が『KARUIZAWA COFFEE COMPANY』の旧軽ブレンドをドリップしていると、誠司がリビングに降りてきた。

「おはよう。」

『発地市庭』の新鮮野菜と、『フランスベーカリー』の塩クロワッサンをテーブルに並べる。いつもと変わらない朝の風景。美希が大切にしている日常。

―あのピアス、もう返した?

誠司の顔を見るたび、声にはしないが目で訴えている。

―そろそろ後頭部に怨念を感じないだろうか?

それにしても安っぽいピアスだった。コットンパールとジルコニアがお花の形にデザインされているピアス。一見して、若い女のものだとわかった。

先日、日本橋のマンションで疑惑が確信に変わった時、美希は驚くほど冷静だった。一瞬、頭を鈍器で殴られたような衝撃が走ったが、およそ3分後には部屋の掃除を続行していたと思う。

美希はこれまでの人生、1度も浮気されたことなどない。男性には安心感を求めるので、そもそも女性関係に不安がある人を選ばない。

それが、小さい頃から幼馴染で家族ぐるみの付き合いをしてきた誠司に裏切られるなんて露ほども思わなかった。

怒りか動揺か。手に力が入らず掃除機をあちこちぶつけたり、畳んだはずの洗濯物を何度も畳みなおしてしまったが、頭はとてもクリアだった。

見つけたピアスはわざとテーブルの目立つところに置いた。誠司も絶対に気づいたはず。しかし、未だ何も言ってこない。

律子から下手に追及するなと言われたし、美希も妻としてのプライドがあるのでぐっと堪えているが、このまま何もなかったことにされるのは癪である。

―この間、日本橋のマンションに行ったのよ。

美希が軽くジャブを打とうとしたまさに同じタイミングで、誠司が口を開いた。

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