軽井沢の冬 Vol.2

軽井沢の冬:眩い都会で見失っていた電機メーカーの男という光

仕事でも恋愛でも、常に勝ち負けを意識し戦闘態勢を崩せない東京人たち。

人生の冬を迎え、心が渇いてしまったら、東京から1時間のオアシス・軽井沢で己を見つめなおすと良いかもしれない。

東京砂漠で迷子になってしまった東京人たちを、軽井沢でもてなしてくれる女性がいる。美希、35歳。軽井沢レディ美希の暮らしと、彼女の元を訪れる東京人たちが美希とともに軽井沢で過ごし、心の平穏を取り戻す様子を紹介していく。

今回、秋深まる軽井沢にやってきたのは、美希を慕う後輩、加奈34歳。ついに彼にプロポーズされ、幸せ絶頂!のはずが・・・?

恐怖のブーケトス


秋晴れの週末。加奈は自身が勤める損保会社マリリンの後輩・恵里香の結婚式に参列するため軽井沢を訪れていた。

軽井沢では今、自然の中で結婚式を挙げるラスティックウェディングが流行っているらしい。ファイヤーピットを囲むように並べられたソファ、ネームタグには落ち葉が使われている。新郎は代理店勤務と言っていたっけ。さすがハイセンスな結婚式だと感心する。

「おめでとう!お幸せに!」

ライスシャワーを浴びながら歩く幸せいっぱいの新郎新婦に声をかけながら、加奈は先週末の夜を思い出していた。


「加奈、僕と結婚してください。」

加奈の34歳の誕生日。普段焼肉デートばかり提案してくる透が、待ち合わせに今年7月に紀尾井町にオープンしたばかりのThe Prince Gallery 36階にあるオールディラウンジ『OASIS GARDEN』を指定した時点でなんとなく予想はついた。

1つ年下の透とは付き合って2年、34歳になる加奈が言うべき答は決まっている。だけど・・・ずっと夢見ていたはずのプロポーズの瞬間に迷うような相手と本当に結婚して良いのだろうか?

何度も自問自答してきた疑問がまた頭の中をぐるぐる回り始めて言うべき言葉を発することができなかった。


「それでは、これより新婦・恵里香さんよりブーケトスを行います。」

司会の声が響いて、加奈は我に返る。恐怖の時間がやってきたようだ。気配を消してひっそりやり過ごそうと思ったのに、27歳の恵里香が無邪気に叫ぶ。

「加奈先輩!受け取ってくださいね!」

加奈に向かって投げられたブーケは、すとん、とすんなり手中に収まってしまい、写真撮影のために前方に呼び出される。

34歳の加奈にとって公開処刑以外の何物でもないことがわからないのだろうか?いや、恵里香は悪気なくやっているのだ。そう自分に言い聞かせ、ひきつる笑顔で写真撮影に応じる加奈だった。

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