軽井沢の冬 Vol.4

軽井沢の冬:一体誰と戦っているの?インスタで感じた敗北感

仕事でも恋愛でも、常に勝ち負けを意識し戦闘態勢を崩せない東京人たち。

人生の冬を迎え、心が渇いてしまったら、東京から1時間のオアシス・軽井沢で己を見つめ直すと良いかもしれない。

軽井沢で、東京砂漠で迷子になってしまった東京人たちを出迎えもてなしてくれる女性がいる。美希、35歳。

軽井沢レディ美希の暮らしと、彼女の元を訪れる東京人たちが美希とともに軽井沢で過ごし、心の平穏を取り戻す様子を紹介していく。

前回の電機メーカー男との結婚に迷う後輩・加奈に続き、「決められない病」の男・正輝が軽井沢を訪れ、心洗われたようである。

今回は東京で肩肘張って生きる、美希の元教え子、27歳の彩が軽井沢に帰ってきて...?

ハイブランドのパーティーでの屈辱


「彩!こっちこっち!」

恵比寿駅西口で、ひときわ目を惹く派手な女、桃子が彩に手を振った。ラフに巻いたロングヘアが自然に、しかし計算された位置で風に揺れる。

桃子がマノロ・ブラニクの新作を履いているのを見て、彩は自分の靴、何年も前にアウトレットで買ったプラダに桃子の視線が注がれないことを祈った。

「タクシーで行っちゃおう。」

桃子は慣れた様子でタクシーに乗り込み「はい、これインビね。」と彩に重厚な封筒を手渡す。

インビ(インビテーション)を手にするのは初めてだった。

ハイブランドのパーティーにFRAY.IDのワンピースで乗り込むのは気後れするけれど、華やかな世界に足を踏み入れる昂揚感のほうが勝る。

誘ってくれた桃子に感謝だ。・・・約束していた相手にドタキャンされたからだとしても。

◆(パーティー会場)

「見て、モデルのRIKAがいる。」

桃子に言われて視線の先に目をやると、個性的なデザインの―彩にはそれがオシャレなのかどうか判断しかねる―ドレスに身を包んだRIKAが笑顔を振りまいていた。

小脇に抱えているのは愛犬?...犬OKなんだ、などと無駄なことを考える。

来場を許された、選ばれた人たち。いかに自分を高く、上等に見せるか。見栄と野心を隠すことなく着飾る男女の熱気で、彩はぼーっとしてしまう。

「あ、愛美ちゃんがいる!」

桃子が彩の脇をするりと抜け、小走りで駆けていく先は―小林愛美だ。

ファッション誌の読者モデルで、最近はお洋服やバッグのプロデュースもしているらしい。それにしてもなんて顔が小さいのだろう。

1人で居所に困り、愛美の手をとってはしゃいでいる桃子の傍に近づくと、

「ね、愛美ちゃんと2人で写真撮ってくれない?」

とカメラを渡された。

「...え?」

なるほど、私は撮影係か。

桃子と愛美は腕を組んでポーズをとり、まるで親友のようだ。彩の知る限り、2人がプライベートで会ったことはないはずだが。

その日の夜、桃子がインスタグラムにアップしたのは彩が撮った桃子と愛美のツーショット。彩の存在はなかったことにされていた。

彩はスマホをベッドに投げ捨てた。

【軽井沢の冬】の記事一覧

もどる
すすむ

おすすめ記事

もどる
すすむ

東京カレンダーショッピング

もどる
すすむ

ロングヒット記事

もどる
すすむ