SPECIAL TALK Vol.7

~目指すべきは、価値あるものを認める社会。信頼のある“日本のものづくり”が世界で戦うカギとなる~

大西:おっしゃる通りです。実はこれ(胸ポケットのチーフを指して)、世界で一番細くて軽い織物なんですよ。石川県のある会社でしか作れないものです。しかし、これは1,000円とか、3,000円とかで作れと言われてもできるものではありません。1万円でようやく採算が合う、といったところでしょうか。ところが、その付加価値の訴求ができないために、この会社も技術力はあっても廃業に追い込まれつつありました。そのタイミングで、たまたま私たちが石川県と組んでモノづくりを始めようと、ここの素材を使うようになり、いまや海外のブランドから引き合いが殺到するまでになりました。このように、日本にはまだまだ高い技術を有する企業がたくさんあります。小さくても技術力や製品力を積み重ねていくことで、その地方の産業全体が底上げされていくのではないでしょうか。

金丸:日本人が安くていいものを求めすぎてしまったせいで、いいものが死滅していったように思います。むしろ中国の方が日本製の価値を信じてくれている。本来、日本の社会そのものが付加価値を認め合う社会になるべきだったのに、そうではなくなっています。「いいものをより安く」は究極の話ですし、いいものはそれなりの値段がすることを、私たちはきちんと認識すべきです。そういう意味でも、三越伊勢丹さんには頑張ってほしいですね。

大西:今後も隠れた名品を発掘し、バックアップしていきたいと思います。

金丸:その姿勢は、品揃えにも表れている気がします。たとえば靴売り場ひとつ見ても、大量生産していないメーカーの商品をちゃんと揃えていらっしゃいますよね。いつも感心しています。

大西:ありがとうございます。その中には年間1万足しか作らないイギリスの紳士靴「エドワード・グリーン」という老舗ブランドがありまして、伝統に裏打ちされた高い技術とデザインで世界的に人気があります。以前は日本での取り扱いがありませんでした。そこで、当社で取り扱わせてもらえないか交渉したのですが、まったく相手にしてもらえなかったんですね。でも、どうしてもラインナップに入れたくて、3年間ずっと通いつめ、ようやく取引させていただくようになりました。10年経ったいまでは、年間で1,300足売れる人気商品になっており、エドワード・グリーン社の売上高の10%強を占めています。こういうこだわりの詰まった品を揃えると、反応してくださるお客様がたくさんいらっしゃるのは嬉しいですね。

金丸:このブランドを購入しようと思ったら、世界のどこかで買わなくてはいけない。御社がその目利き役として、リスクを取って調達してくださっているのは頼もしい限りです。

日本に必要なのは全体を見渡せる人材

金丸:私たちが属するIT業界は、他の業種に比べて市場の変化が激しい業界です。たとえばアップルは、従来の路線から姿形を変えました。彼らは自分たちで工場は持ちません。商品を企画し、世界中のファクトリーから最も優れたところと手を組み、生産しています。iPhoneも企画とデザインをアップルが手掛け、中のパーツはピースごとに複数のメーカーに競争させて、より優れたものを作らせています。そしてハードに、コンテンツやサービスを組み合わせて売っている。これがアップルモデルです。

大西:IT業界の変化の早さには目を見張るものがあります。そして、アップルにあって日本企業に足りないものは、俯瞰の視点ではないでしょうか。日本人はパーツや細かいものを作るのは得意ですが、全体をデザインすることや新しいアイデアを生み出すことは苦手です。こういった俯瞰の視点やイノベーティブな発想は、日本の従来型の事業部制のモデルからは生まれにくいですし、グローバルなビジネスという観点で見ると、不利だとも思っています。

金丸:ここで重要なのは、結局アップルも三越伊勢丹さんのように「消費者が求めているものを知っている」ということなんです。これからの時代は、消費者のニーズを知っていることが最大の武器であり、その強みを活かして他社と差別化を図ることが、企業にとって重要な戦略だと私は思っています。つまり、いまの企業間の競争は、好きで得意な道を選んだ者同士の勝負になってきています。好きで得意な道だからこそ、顧客が何を求めているのかを的確に把握できる。そうして顧客を獲得し、さらに強い企業へと進化しているように感じています。そういう意味でいうと、大西社長が伊勢丹に入られたことは、大正解だったと思います。

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