SPECIAL TALK Vol.3

~加速するグローバリゼーションのなか、国というカタチにこだわるのは、もう古い~

「失敗」を悔いるより、「学習」の機会と捉える

金丸:三木谷さんでも落ち込んだりしますか? 銀行に勤めていたサラリーマン時代、起業してすぐの時代、それから会社が大きく成長して世界の楽天になった今と、それぞれ苦しくて落ち込むような時にどんな風に対処しているのでしょうか?

三木谷:いやー、基本的にあんまり落ち込んだりしないんですよ(笑)。とにかく楽観的、なにかあっても「まあなんとかなるだろう」と。これは銀行員時代から今まで、変わらないスタンスですね。

金丸:それはいいですね。なぜそうなれるかというと、きっと未来を信じることができているからでしょうね。未来を信じれば、今日の困難に集中できる。一方で未来に悲観的だと、今日すら信じることができないので、今日を大切にできない。この差はすごく大きいでしょうね。

三木谷:新経連でも「失敗」の重要性を提言していますが、大切なのは失敗から学ぶことなんですよね。すべては、「失敗」ではなくて「learning experience」だとポジティブに言い換えていいと思ってるんです。

金丸:その楽観的な性格は、どういう影響を受けて作られたのでしょうか?

三木谷:父がイエール大学の客員教授の頃、7歳~9歳まで、アメリカで過ごした経験も影響しているかも知れませんね。イエールから30分くらいの、ローカルのすごく小さい白人の街で、学校もクラスに有色人種は黒人の先生と私の2人しかいませんでした。当然差別もありますが、そういう環境だと、もう細かく気にしてられない(笑)。

金丸:確かに、三木谷さんはあっさりしてますよね。経営者でもけっこう引きずる人は多いけど、三木谷さんは絶対に引きずらないタイプ。ご両親では、性格はどちらの影響が強いですか?

三木谷:母ですかね。父はもっと戦闘的で、感情をストレートにぶつける(笑)。ただ、父からはものごとを大局的に見たらどうなるんだ、という思考を学んだと思います。いわゆるマクロ経済学の考え方です。ある程度はどういうことが起きるかというシナリオがあって、その上に立って想定することができる。

金丸:なるほど。

三木谷:たとえばインターネットが出てきた時もいろいろ賛否の意見はありましたけど、結局はインターネットの方が通信販売がより便利になって、安くできるよね、と。だったらそちらが必ず大きくなるだろうと。

電子書籍も同じで、徐々に流れはそうなってきてる。あるいはビットコインにしても、いろんなことはあっても100年後は主流になってるかも知れない。3歩くらい下がって、大局を見て判断することが大切だということ思うんです。

金丸:一昨年お亡くなりになられたお父様との共著「競争力」(講談社刊)を拝読させてもらいました。大変感動的で熱いものでした。

三木谷:父はビジネスマンではないんですが、経済学者であり社会学者である。父の学識に基づくロジカルな考え方を自分の中に吸収しておきたい。そんな思いから本を作りました。

金丸:私も本を読んで改めて感じたことがあって。たとえば我々はIT業界にいて、仕事が陳腐化してしまうリスクが常にあるんですが、お父様にはまったくそれがなかった。

三木谷:父は、安易に論文を書くのは好きではなかったようで、学術的な貢献というよりは、常に問題提起をし、問いていく、というタイプでした。何で中央銀行は独立でなくてはいけないんだ! とか。シュンペーターとかケインズとか、そういう理論からどんな議論が出てきたのかをさらに提起していく。

金丸:シュンペーターとケインズの理論は、どちら側になるかはさておき、両方学ぶべきですよね。

三木谷:そうですね。僕が思っているのは、今の世の中は技術革新の中にあって、地殻変動が起こっているので、静的モデルのケインズ的な経済政策っていうのは、有効性が低いんじゃないかと。そういう中、財務省が行うような財政出動とかは、あんまり意味がないんじゃないかと思うこともあります。

金丸:一過性の可能性がありますよね。経営の現場感で言うと、みんな共通して、シュンペーターに共感を覚える。我々は実践で手応えを感じていますから。

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