
~これからの世界における日本の戦い方。IT化が変えた働き方と、進化のスピード~
2020年のニューリーダーたちに告ぐ
一大ムーブメントを巻き起こしたドコモ「iモード」を開発した夏野剛氏。
そのビジネスモデルは、Apple社が研究対象とし、現在の快進撃にいたるまで参考にしたといわれるほど革新的なアイデアだった。
現在も最先端を走るそのITへの知見は、10社以上の社外取締役、慶應義塾大学教授からテレビのコメンテーターまでを務めることからもうかがえる。
対談者は、フューチャーアーキテクト代表取締役会長の金丸恭文氏。
次世代のニューリーダーたる東京GENTSが21世紀型ビジネスの競争を勝ち抜くためのヒントがここに。
金丸:まず夏野さんをどのような肩書でご紹介すればよろしいでしょうか?
夏野:大学教授の肩書で紹介いただくことが多いです。
金丸:大学ではどれくらいのペースで教えていらっしゃるのですか?
夏野:だいたい週1回です。ですが大学の授業期間は1年のうち7ヵ月しかありませんから、いろいろな企業の社外取締役もやらせていただいています。上場している会社だけで7社になりました。
金丸:それは、すごいですね。
夏野:非上場会社も入れると10社以上になりますね。思うに、IT社会になって一番変わったことは、ひとりが1社だけに所属することを決めなくてもいいということだと思います。ITの進化によって、ひとりの人間が活躍できるチャンスが飛躍的に広がったんです。今やどこにいても事務処理やコミュニケーションができる時代です。複数の案件を処理できるマルチタスクの時代がきていると感じています。
金丸:確かにいつも会社のデスクにいる必要はなくなりましたね。
夏野:一日中、会社にいることに価値がある時代は、20世紀で終わりました。しかし、まだそういう価値観をもつ経営者も少なくありません。
金丸:ITによって仕事のやり方ががらりと変わったにもかかわらず、ということですね。
夏野:そうですね。その一番の要因は、組織に属している人と属していない人の情報収集能力の差がほとんどなくなったことだと思います。かつては会社から情報を提供されなかったら、情報不足で専門家にはなれませんでした。しかし、21世紀は興味さえあれば、どんどん情報を得ることができます。それこそ、わからなければGoogleで検索すればいいのです。
金丸:もはや個人の力と、20世紀型の旧態依然とした企業の組織力とが戦っても、必ずしも組織が勝てる時代ではなくなりました。
夏野:それは「組織力」の定義が変わったからだと思います。20世紀は平均的に何でもできる人、同じ色に染めて会社にとって使いやすい人を増やしてきました。ですが、21世紀はそれぞれ得意分野を持っている人やその道のプロを集結させたほうが、組織力としては強力なんです。それを、ほとんどの経営者はまだわかっていないのではないでしょうか。
金丸:いや、わからないのではなくて、わかりたくないんですよ。つまり、それは自己否定になってしまいますから。
夏野:そう、自己否定です。我々はいつも「井の中の蛙になったらいけないよ」と言われて育ってきました。にもかかわらず、30年間同じ釜の飯を食ってきた人たちだけで役員が構成されるという20世紀型のマネージメントを、いまだに引きずっているのです。
金丸:先日、政府の消費増税に関するディスカッションに参加しましたが、マスコミも含め多くの方が日本全国津々浦々でデフレが起きているかのごとく訴えていました。ですが、長く続いたデフレ時代に、デフレという言葉とは無縁なほど成長している企業もあるのです。目まぐるしい環境の変化に対応できている企業と、できていない企業があるというのが実情ではないでしょうか。
夏野:もちろん、マクロの視点は大切ですが、じゃあインフレにすれば全体の景気が上がっていくという考えは、もはや時代遅れです。なぜそのような状況に陥っているかをひとつずつ紐解いていくと、やはりそこには個々というものがあって、これまでの価値観で解決するのは難しいと思います。
金丸:おっしゃるとおりです。
夏野:だからこそ、政府が社外取締役を事実上義務づけたのは、大きな変革に繋がるはずです。これだけでも“井の中の蛙”ではいられなくなる。僕は、社外取締役の過半数の設置をすべての東証上場企業に義務付ければ、日本経済は復活するとさえ思っています。