
~これからの世界における日本の戦い方。IT化が変えた働き方と、進化のスピード~
キャリアを決定づける若かりし頃の衝撃的な原体験
金丸:ところで、夏野さんのキャリアのスタートはどのようなものだったのでしょうか?
夏野:実は学生時代にリクルートで1年半、アルバイトをしていました。
金丸:非常に面白い会社ですよね。私も大学を卒業するときに訪問した企業のひとつが、リクルートでした。夏野さんは、リクルートの社員になりたいと思わなかったのですか?
夏野:入社する気はありませんでした。というのも、リクルートではアルバイトはA職と呼ばれていて、社員とほとんど変わらない仕事をやらせてもらえました。本当にいろいろなことにチャレンジさせてくれましたね。私が学生だった80年代後半は、パソコンを使いこなせる人もあまりいなくて、自分でプログラムを組んでアンケートをとって、解析プログラムを作ったりしていました。
金丸:そんなプログラムを組める人は、当時なかなかいなかったでしょう。
夏野:そうですね。今でも忘れられないのは、表計算ソフトなどの登場を機に、ビジネスのプロセスが一瞬で変わってしまったことです。今までものすごく時間をかけてやっていたことが、ほんの一瞬で出来上がってしまう。懸命にプログラムを組んでいたのに、苦労してきたことが、たったひとつのセルですべてできてしまう。自分はこれまでいったい何のためにやっていたのだろう、と思いましたね。大学の情報計算処理センターにこもって、ちまちまやって、もうバカらしい! これが僕の原体験です。だから「ビジネスにITをどんどん、いれていかなきゃダメだ」ってことを、このとき痛感したんです。
金丸:あれは本当に衝撃的でした。
夏野:新しいテクノロジーの誕生によって、自分がやってきたことの意味がいきなりなくなってしまう。そういう経験をしているかどうかは経営者として、すごく大事だと思います。
金丸:我々の世代で最も画期的だったのは、インテルのCPUが出てきたことですね。単に電子回路が置き換わっただけだと思っていたら、その四角いチップにプログラムが内蔵できるということに大きな衝撃を受けました。ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズも同じ世代なのですが、みんなそこに無限の可能性を感じたのではないかと思います。