2024.11.05
マティーニのほかにも Vol.15東京に点在する、いくつものバー。
そこはお酒を楽しむ場にとどまらず、都会で目まぐるしい日々をすごす人々にとっての、止まり木のような場所だ。
静かなバー。賑やかなバー。大規模なバーに、隠れ家のようなバー。
どんなバーにも共通しているのは、そこには人々のドラマがあるということ。
カクテルの数ほどある喜怒哀楽のドラマを、グラスに満たしてお届けします──。
「マティーニのほかにも」一挙に全話おさらい!
第1話:国立大を卒業してメガバンクに就職した22歳女。初めて東京のバーに行ったら…
内向的な性格で、趣味は映画鑑賞という生粋のインドア派である早紀子にとっては、「東京のバー」なんてものは、その字面を見ただけで気後れしてしまう。
けれど、スマホの画面に映し出された『初めてバーに行く人ガイド』を何度も繰り返し読みながら、早紀子はゴクリと唾を飲み込む。
そして、ついこの前の金曜日に起きた苦い体験を思い起こす。
― 私、今夜は絶対に、ひとりバーデビューするんだ…!
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第2話:初デートで渋谷のレストランに連れていったら、「なんか違う…」と男がフラれた理由
「ハァ…。箱開けてるだけで実家の匂いするわ」
翔平の実家は、はっさくの名産地である和歌山だ。市内の進学校から慶應大学に進学したのは、もう7年も前のことになる。
けれど翔平は、7年という月日が経った今も、「地方出身者である」というコンプレックスを拭うことができないでいた。
それは、大学1年生の時。当時片思いしていた内部進学の女の子と上手くいかなかったことに、深いトラウマがあるからなのだった。
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第3話:港区の1LDKで彼氏と同棲して1年半。30歳女が深夜1時に帰宅すると、男が吐き捨てた一言とは
深夜1時を回った頃。仕事帰りに時々利用するミクソロジーバーで楽しんだ瑠美が上機嫌で帰ってくると、リビングにはムッツリとした顔をした秀司がソファに座ってスマホをいじっていた。
「あれっ!秀司、起きてたんだ。ただいまぁ〜」
思いがけず顔を見られたことに喜ぶ瑠美だったが、秀司の反応は芳しくない。
スマホからチラと視線を上げて瑠美の顔を確認すると、うんざりしたような表情を浮かべ、無言のまままたすぐにスマホに集中し始めたのだ。
「え…、なに?なんか感じ悪いですけど…」
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第4話:一橋卒の28歳エリート証券マン。上司から誘われ、日本橋のバーに渋々付いて行ったら…
ニコニコと気の抜けた笑顔の橘を前に、秀司は頭の上に疑問符を浮かべる。
― え…なに?忙しいんだから、用事があるなら早く言ってくれよ…。
けれど、そんな秀司の心の中など、橘は全く気づいていないのだろう。次に橘の口から出たのは、今の秀司が一番言ってほしくない言葉なのだった。
「な、新田。久々にちょっと飲みに行くか!」
― ええ…マジでかぁ〜…!
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第5話:損保勤務の28歳独身男がNY駐在に。現地でハーフの彼女ができて、夢中になった結果…
橘が28歳だったのは、もう12年も前だ。今でこそ転職も経験し証券会社で役職付きとなっているものの、当時はまだ大手損保に入社6年目のいちペーペー。
大して自信もない語学力を見込まれ、独り身のままNY支店に駐在をしていた頃だ。
慣れない業務に慣れない英語で、もちろん仕事は大変だった。
けれど当時を振り返っても、橘の胸に込み上げてくるのは苦労の酸味ではなく、ほろ苦さを孕んだ甘さなのだった。
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第6話:元彼が忘れられない。思い出の場所で感傷的になった37歳女は思わず勢いで…
口に広がるジンジャーエールのフレッシュな爽やかと、グレナデンシロップの甘さ。
そして───その眩いばかりの無垢さを、ウォッカの苦味が鋭く刺し貫く。
― やっぱり今の私には、シャーリーテンプルじゃなくてこれがお似合いだわ。
一口、また一口と飲み進めるごとに、思い記憶の扉が徐々に開いていく。
気がつけばグラスは半分になり…。12年前のあの苦い体験を今、リサはハッキリと思い出してしまっていた。
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第7話:「俺ってズルいのかも…」27歳男が、10歳上の女性の魅力にハマった理由
ホテルのバーでリサが過去の過ちを悔やんで悶絶していたのは、1週間前のことになる。
若い時にプロデューサーと寝たことがある…なんて、テオにとっては本当に取るに足らない過去にすぎない。だからこそリサのあの落ち込みぶりには、あまりの感覚の違いに心底驚かされた。
あの夜のいじらしいリサの姿を思い出しながら、テオはシティホテルの狭いシャワーを浴びて考える。
― だいたいリサは、心がキレイすぎるんだ。そんなことを言いだしたら、俺だって…リサを利用してるのに。
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第8話:エアコンの設定温度でケンカに…。夏のお家デートで露呈した、29歳男の本性
ブランケットを羽織った女が髪をかきあげながら、開きっぱなしの寝室からのそのそと出てきて快利に声をかける。そして、おもむろにエアコンのスイッチを切って言った。
「おはよぉ、カイリ。てか、エアコン寒くない?あたし冷え性なんだけど」
けれど快利は、すぐにもう一度スイッチを入れて言い返す。
「じゃあ出てけば?俺は暑いの苦手なんだわ」
「はあ…?」
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第9話:田園調布雙葉出身、親は開業医の28歳女性の婚活が難航するワケ。男との交際を反対されたがその裏には…
院内では自分のことを「お父さま」ではなく「院長」と呼ばせるくせに、院長──いや、父の方は自分のことを、所構わず「由紀」と呼ぶ。
その傲慢さに辟易しながらも、由紀はそれを表に出すことなく、黙って給湯室へと向かった。
― お父さまには、何を言ったってどうせ無駄だし。
ドリップコーヒーが一滴ずつカップに溜まっていくように、由紀の心にも黒く、苦い思いがじわじわと広がっていく。
父に歯向かっても、意味はない。そのことは、1ヶ月前──快利と別れさせられた時に、いやというほど思い知らされたのだから。
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第10話:結婚わずか3ヶ月で別居した35歳会計士。「妻とはもう無理」と思った理由とは
いざ一緒に生活を始めてみると、気の強い沙耶香のことをどうしても愛しいと思えず、わずか3ヶ月ほどで龍一から離婚を切り出すことになった。
「絶っっっ対に嫌!恥かかせないでよ!!」
半狂乱になった沙耶香の拒否を受け、半ば無理やり恵比寿にひとり部屋を借りて別居を始めたちょうどその頃、事件を通じて仁美と出会った。
そして、「助けていただいたお礼に…」と、名刺を頼りに事務所を訪れてくれた仁美を見て、強く感じたのだ。
― ああ、アクの強い沙耶香とは全然違う。そばにいるのが、こんな人だったらよかったのに。
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第11話:「3ヶ月で離婚なんて…」“好条件の男”と結婚してすぐに、別れを切り出された28歳妻は…
「どうしてっ!私、こんなつもりじゃなかったのに…!」
すっかり冷蔵庫の中身が空っぽになると、沙耶香はまるで、自分自身も空っぽになってしまったような気がした。
肩で息をしながら沙耶香は、歯を食いしばり絶望的な虚しさに耐える。
そして、3年前。結婚たった3ヶ月目で龍一から「離婚しよう」と言われた、あの夜のことを思い返すのだった。
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第12話:「好きになっちゃった…」22歳・東大女子が初めて恋に落ちたのは、意外な相手で…
目指しているのは、上野駅前から少し路地裏に入ったところにあるバーだ。店がオープンするのは17時半と1年を通じて変わりはないものの、早く日が沈めば、早く店に行けるような気がするから。
20分ほど歩いて、薄汚れた木製ドアの前に辿り着く。
由依はようやく立ち止まって少しだけ息を整えると、勢いよくドアを押し開けて叫んだ。
「リョウさん!」
第12話の続きはこちら
第13話:10月になると思い出す元カノ。年上女に恋した42歳男が、独身を貫き通しているワケ
由依の不在を確信した諒は、ホッと胸を撫で下ろす。
別に、由依のことが嫌というわけではない。むしろ最近では、由依が訪れない夜に寂しささえ感じ始めている自分自身に、戸惑っているほどだ。
だけど、今日は。今夜だけは。由依が来店しないことに対して、安堵の気持ちの方が大きかった。
ハロウィンが近い10月末のこの日は───諒にとって、あまりにも特別な日だったから。
第13話の続きはこちら
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