マティーニのほかにも Vol.12

「好きになっちゃった…」ミス東京大学に推薦された22歳女が、初めて恋に落ちたのは意外な相手で…

東京に点在する、いくつものバー。

そこはお酒を楽しむ場にとどまらず、都会で目まぐるしい日々をすごす人々にとっての、止まり木のような場所だ。

どんなバーにも共通しているのは、そこには人々のドラマがあるということ。

カクテルの数ほどある喜怒哀楽のドラマを、グラスに満たしてお届けします──。

▶前回:「3ヶ月で離婚なんて…」“好条件の男”と結婚してすぐに、別れを切り出された28歳妻は…


Vol.13 <アイオープナー> 黒井由依(22)の場合


「じゃあ、私そろそろ帰るね。また明日」

橙色に染まっていく窓からの景色を見ながら、由依は帰り支度を整えて言った。

「あ…。黒井さん、お疲れさま」「気をつけて」と返すのは、おとなしくて人の良さそうな男の子たちばかりだ。

由依の所属する東京大学工学部のゼミには、由依のほかに女の子はひとりもいない。

長い手足。小さな顔。形の良い唇。少しグレーがかった瞳…。

ミス東大に推薦されるほどの美貌を持つ由依は、大勢の女の子たちの中でも目を引く方だ。ましてや男性比率の高い本郷キャンパスの中ではまさに、“高嶺の花”といった存在なのだった。

― 10月に入った途端、夕暮れの訪れが一気に早くなったような気がする。

キャンパスを出て、暮れゆく不忍池の隣を小走りしながら由依はそう思う。

それは、由依にとっては嬉しいことだった。

目指しているのは、上野駅前から少し路地裏に入ったところにあるバーだ。店がオープンするのは17時半と1年を通じて変わりはないものの、早く日が沈めば、早く店に行けるような気がするから。

20分ほど歩いて、薄汚れた木製ドアの前に辿り着く。

由依はようやく立ち止まって少しだけ息を整えると、勢いよくドアを押し開けて叫んだ。

「リョウさん!」

この記事へのコメント

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No Name
変に計算ずくとか自己流のモテテク駆使やらアホ臭い駆け引きで自爆....等々残念女子が主人公の話が多い中、ここまで明るく自分の気持ち正直にぶつけるなんて返って清々しいなと思った!
先週由依の印象はあまり良くなかったけれど今日読んでなんだか応援したくなったよ。
2024/10/09 05:416
No Name
人生で一度位は、結構年上の男性に強く憧れたり本気で恋に落ちたりすること有りますよね。
大学一年の頃すごく好きだった人を思い出しました。
2024/10/09 05:283
No Name
特に大きな感動はなかったけれど、微笑ましいほっこりする話だった。
2024/10/09 06:222
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