マティーニのほかにも Vol.6

20代の頃の元彼が忘れられない。思い出の場所で感傷的になった37歳女は思わず勢いで…

東京に点在する、いくつものバー。

そこはお酒を楽しむ場にとどまらず、都会で目まぐるしい日々をすごす人々にとっての、止まり木のような場所だ。

どんなバーにも共通しているのは、そこには人々のドラマがあるということ。

カクテルの数ほどある喜怒哀楽のドラマを、グラスに満たしてお届けします──。

▶前回:損保勤務の28歳独身男がNY駐在に。現地でハーフの彼女ができて、夢中になった結果…


Vol.6 <シャーリーテンプル> リサ・ミヤタ(37)の場合


搭乗後の機体の点検による遅延で、リサの乗るJFK−HND便が到着したのは日本時間の21時を回っていた。

「Aww、my back hurts…」

長時間のフライトで疲弊した体。着陸した飛行機の窓にへばりつく水滴。

2年ぶりに訪れる東京が梅雨のシーズンであることに、リサはわずかに心を沈ませた。

けれど、弱音は吐いていられない。

今回の来日は、日本とアメリカのハーフであるリサにとっての親戚参りではなく、自身の代表出演作であるミュージカルの日本公演のためなのだ。

舞台女優らしく背筋を伸ばしながら飛行機を降りたリサは、またしても長い待ち時間に耐えながらスーツケースを受け取る。

タクシーに乗り、品川のハイクラスホテルのベッドに倒れ込んだ時には、時刻はすでに23時。

明後日から始まる稽古のことを考えれば、早くシャワーを浴びて眠りにつくべきなのはわかっているが、あまりの疲れのためにリサはベッドに身を横たえたまましばらく動くことができなかった。

― ああ、疲れたぁ。

疲れ切った体をすぐにも休ませたかったが、どうにも目が冴えて眠れない。リサは何気なく、目についたベッドサイドのインフォメーションブックをパラパラとめくった。

するとふと、思いがけない情報が目に飛び込んでくる。

― あれ?こんな時間でも、まだバーはオープンしてるんだ。

この記事へのコメント

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No Name
そんな事があったのね。でもそのプロデューサーの力ではなく自力でここまで来たのだからもう忘れていいと思う。
2024/07/03 05:2726返信1件
No Name
未練タラタラとかではないけど何となく心に残ってる人は誰にでもいるような気がする。テオにはバレなかったけれどヒデを裏切った罪悪感をずっと抱えてバーで当時の気持ちが蘇って感傷的になってしまったんだね。 切ないストーリーだったけれどテオのキャラがちょっと。普通に日本で生まれ育ったオラオラ系のアラフォーおじさんのようでそこだけちょっと残念。
2024/07/03 05:3819返信1件
No Name
ヒデは本当に懐深い良い男だね
2024/07/03 08:397
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