SPECIAL TALK Vol.96

~人と競うのではなく自然と対峙したい。未知への探究心が山への挑戦を支えている~

金丸恭文氏 フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長

大阪府生まれ、鹿児島県育ち。1989年起業、代表取締役就任。


「ひとりでなんでも」ではなく「ふたり組として強くなる」


金丸:これだけ興味深いお話を伺うと、平出さんが実際に登山でどのような景色を見ているのかを知りたくなりました。

平出:それなら映像がありますよ。2017年にシスパーレに登頂したときは、自分たちで撮影しながら登りました。その映像がNHKでドキュメンタリー番組として放送されましたし、ブルーレイも販売されています。オンデマンドでも観られますよ。

金丸:絶対に観ます。それに本も書いてほしいですね。成功例だけじゃなくて、「途中で引き返す決断をした」という話は、多くの人にとって教訓になると思います。

平出:実はずっと「本を書け」と言われていて(笑)。

金丸:やっぱり(笑)。私は「勇気をもって途中で辞める」ことも評価される世の中になってほしい、と思っています。「決まったことだから」と無理に続けても、傷口を広げるだけのこともある。それに目標を達成できなかったとしても、そこで得た経験はその後に生かせるわけじゃないですか。

平出:僕は谷口さんと登っていた頃から、「成功したときでも反省会をやろう」と決めています。失敗したときは、下山中に自然と何がダメだったかを話すんですよね。でも成功したときはそういう話にはならない。でも、そこで振り返りをしておけば、次はさらなる挑戦ができる。

金丸:すごくいいお話。早く本にしてほしいです(笑)。

平出:できることなら大量に撮りためている映像や写真をまじえて形にしたいですね。たとえば、「ここで引き返します」と話している映像は、そう決断した瞬間しか伝えません。でもその決断に至るまでには、まるでバケツに水がたまっていくようにさまざまな根拠が積み重なっているんです。だから映像に文章や写真をプラスすれば、僕たちの心情や行動に至るまでの経緯がもっと伝えられるんじゃないかと考えています。

金丸:ということは登っている間は、ずっと考え続けているんですね。

平出:そうですね。一歩踏み出すごとに足から伝わってくる感触が違います。硬い氷なのか、柔らかい雪なのか、12本あるアイゼンの爪のうち何本かかっているのか。一歩一歩その感触を感じながら、頭の中でリスクを積み上げていく。そうしてリスクがバケツからあふれそうになる直前で、「ここまでで帰ろう。引き返そう」と判断する。これまできちんと判断できていたからこそ、こうして今、僕は生きています。

金丸:すごい世界ですね。私は登山家と起業家って、身を置いている世界は違いますが、本質は似ているように思います。リスクを嫌う人はそもそも起業しないし、リスクテイクして挑戦するからこそ得られるものがある。もちろん失敗することもありますが、失敗を糧に挑戦を続けていれば、失敗は失敗でなくなります。そして若くて無茶できるときにしかやれないこともあれば、経験を積んだからこそできる事業だってある。

平出:僕は今43歳です。以前に比べると間違いなく体力が落ちているので、それをどう解決していくかを自分と向き合って考えないといけません。でも総合的に見ると、20代の自分よりも今の方が生きて帰れる可能性が高くなっていると感じます。体力に物を言わせて登頂し、片道切符であるのに気づかず命を落とすようなことはもうない。それはやっぱり、経験があってこそなんですよね。

金丸:それに平出さんには、一緒に登るパートナーがいますよね。経営者もひとりで何でもできなきゃいけないわけじゃありません。苦手な部分は人に頼った方が、いい結果につながります。

平出:そうですね。僕は「ふたり組として強くなればいい」と考えています。もともと1+1が4や5になるようなパートナーと組んでいるので、たとえ僕の体力が0.5になったとしても、それを補うだけの経験や強さによって、ふたりで4や5にできると。

金丸:次の山には、いつ出発されるんですか?

平出:8月下旬に出発して、10月上旬には日本に帰ってくる予定です。昨年末の登山もそうですが、2年後くらいにK2(世界2位の標高を誇る山)の未踏ルートに挑戦するための下準備として挑んでいます。

金丸:2年後の挑戦もさることながら、まずは今年の挑戦が無事に終わることを祈っています。そして帰国されたら、またお会いしましょう。今日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。

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