2021.06.04
vs.美女 ~広告代理店OLの挑戦~ Vol.1― 何これ、経理部と全然違うんですけど!
フロアは、なんだか甘やかな香りがした。
新年度というタイミングもあり、半数以上の人が出社していて社内は賑やかだ。そんななか、園子は指定された席につく。
するとその後すぐに、新年度総会が始まった。そこで園子は、挨拶をすることになっていたのだ。
「本日から配属となりました、山科園子と申します」
そう挨拶すると拍手が起こり、リモートで見ている人たちの拍手もスピーカーを通して聞こえてくる。園子は周りをぐるりと取り囲む社員たちに向かって、丁寧にお辞儀をした。
こうして見ると、明るい色の服を着た人が多い。
― なんで私、グレーのブラウスにブラウンのスカートなんかで来たんだろ。
たまらなくなった園子は、挨拶の後にこう続けた。
「私、元は経理にいたんですけど…。いやあ、噂通りの美人ぞろいでびっくりです。ちょっと私、服が地味過ぎましたね!…あ、顔もか」
誰かしら笑ってくれるものだと思っていたのに、その瞬間、空気が凍ったようになった。綺麗に化粧が施された彼女たちの目が、園子を値踏みするように見ている。
「ということで、まずは雰囲気になじむとこから頑張ります。あ、もちろん仕事も全力でやるので、いろいろ教えてください!」
また拍手が起こるが、その音はどこかよそよそしく聞こえた。
「ねえ。あの人、ウチには場違いじゃない?」
総会が終わりトイレに入っていると、洗面台スペースの方から女たちのヒソヒソ声が聞こえてきた。園子は個室から出ずに、耳をすませる。
「それね!悪目立ちしちゃって、なんか可哀想だよね」
― もう、思いっきり私の話じゃん!
美女がクスクスと笑いあう様子は、見ていなくても想像できる。
「でもさ、あの子をわざわざここに配属するって、人事が何を考えたのか聞きたいわ」
― 私も聞きたいですよ…。
「あの子、コネ入社らしいよ。だから自分でここを希望したんじゃないかな」
― 希望はしてない!
心の中でこっそりと切り返しながら、小さく地団駄を踏む。だがしばらく待っても噂話は止まず、むしろエスカレートする一方だった。
園子は思い切って、堂々と個室のドアを開ける。そして気づかず噂話を続ける女たちに向かって、スタスタと歩み寄ったのだ。
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異動先の雰囲気に、どんどん飲まれていく園子は…?
なんて突然自虐言うような子、普通いないから。
意味不明な態度が、自分で自分を生きにくくしているように思う。
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