2020.09.07
モラトリアムの女たち Vol.1メッセージは同じマンションに住む高田華子からだった。華子とは地域の赤ちゃん交流会で知り合ったいわゆる“ママ友”だ。
同じ月齢の女の子の親で、年齢は未希の3つ上。
さらに、未希が通院していた不妊治療クリニックに彼女も通っていたようで、共通点が多く話が弾んだのだ。
『ぜひぜひ行きましょ♪今のところ、幼児教室のある月曜以外はいつでも大丈夫です!』
未希は、出産前には一切使っていなかった絵文字や、彼女とやり取りするためにわざわざダウンロードしたスタンプでメッセージを彩り、そう返信した。
するとそのタイミングで、ふぎゃあ、ふぎゃあと咲月が泣き始める。
この泣き方はお腹が減ったのだろう、と感覚的にそう分かってしまう自分が誇らしい。
―穏やかな毎日、幸せだなあ。
授乳をしながら、窓の外に遠く見えるオフィスビルのタワー群を眺め、その中で働くかつての自分のような人々に思いを馳せる。
―本当に、幸せなんだから。
未希は繰り返す。まるで自分に言い聞かせるかのように。
◆
「高田さんって、あの、カメラマンの高田明久さんの奥さん?」
夜、華子に誘われたことを、会社から帰ってきた慎吾に報告すると、驚いたように答えた。
「そう。赤ちゃん交流会で知り合って、仲良くしてもらってるの」
華子の夫は、テレビCMにも出演したことがある有名カメラマンである。目鼻立ちが整っていてモデル並みの美男である彼は、マンション内でもちょっとした有名人なのだ。
「でも未希、前に公園でたむろする人たち見ながら、『ママ友とか苦手かも』って言ってたよね」
「子どもを産んだら別よ。情報交換もできるし意外と楽しいの」
慎吾の顔が少々不満げになっていることに未希は気付く。すると聞こえるか聞こえないかの微妙な声で、慎吾がつぶやいた。
「…ま、ほどほどに。仲良くするのは奥さんだけにしておいてよ」
かなり小さな声だったが、未希の耳にはハッキリとそう聞こえた。
「なにー、嫉妬?」
未希は慎吾の顔を覗き込み、ニヤニヤと笑いながらからかう。
「そうだよ!!」
慎吾はお返しとばかりに未希の頬を両手でつねる。「痛いー」とお互い大声で笑い合うと、ベッドルームから咲月の泣き声が聞こえてきた。
「いいよ、そのまま寝てきな。洗い物も僕がしておくから」
ニッコリと笑う慎吾の優しさに、未希は今日も甘えることにした。
「じゃあ洗濯もお願い」
「オッケー」
慎吾は子供が生まれてからというもの、以前にも増して優しくなっている。
不安定になりがちな産後と言えど、慎吾の存在のお陰で未希も心穏やかに過ごせていると言っても過言ではなかった。
おしゃれなママ友・華子
それから3日後のこと。未希は、華子と出かけることになった。
銀座で子ども服を見た後、少し散歩をしてから丸の内の『ローズベーカリー』に入る。
昼下がりの穏やかな雰囲気が店内に流れており、子連れでものんびりできそうで未希も安心した。
場所柄、ビジネスマンやOLが遅めのランチをとっている姿もある。
彼らを横目に見ながら、子供をあやしつつママ友と食事をする自分。それはいまだに、くすぐったいような不思議な感覚がある。
「咲月のお洋服、華子さんに選んでもらえてよかった。私、センスないから」
未希はルイボスティーを飲みながら華子に感謝すると、彼女は得意げに答える。
「ファッションのことなら何でも聞いて。それが私の仕事だったもの」
この記事で紹介したお店
ローズベーカリー 丸の内
まぁ、それだけ優秀だったら、誰かがツテなんかをたどりながら未希の前に現れて、また復帰してよ、なんてオファーも来るかも知れないけどさ。
復職してたら、子供が熱出した風邪引いた諸々で早退する事になった時なんで私ばっかり子供の面倒見なきゃいけないの?仕事に集中したいのに。とか思いそうだし。
とりあえず周りのママ友と比較なんてしないで、子育てに集中してた方が良さそう。
【モラトリアムの女たち】の記事一覧
2020.11.23
Vol.13
復職を強く勧めてくる、同期の男社員。男が腹の底で考えていた、まさかの計画とは
2020.11.22
Vol.12
“ママ”として生きることを決意したはずの女は…?「モラトリアムの女たち」全話総集編
2020.11.16
Vol.11
「私が目障りだったんでしょう!?」女を奈落の底に突き落とした、男の最低な告発とは
2020.11.09
Vol.10
家事も育児もしない夫に嫌気がさした妻。不満を溜め込みすぎた女が、ついに手を出したモノとは
2020.11.02
Vol.9
タワマンの一室を占領して、怪しい密会をする女。そこで行われていた、ある秘め事とは
2020.10.26
Vol.8
意味深な連絡をしてきた女と、突然音信不通に…。数日後、見かけた姿に感じた異変
2020.10.19
Vol.7
娘を実家に預け、男と会っていたことがバレた妻。言い訳する女に夫がかけた言葉とは
2020.10.12
Vol.6
「男とホテルにいたでしょ」夫の前で暴露してきたママ友。狼狽える女に、夫の反応は…?
2020.10.05
Vol.5
元同僚の男から誘われ…。幸せな結婚生活を送っているはずの女が、出した答え
2020.09.28
Vol.4
「家事なんて外注すれば」復職を迷う元・バリキャリ主婦のプライドを傷つけた、女の発言
おすすめ記事
2018.04.01
男女のAorB〜回答編〜
男女のAorB〜回答編〜:出会ってすぐ家に行った女or3ヶ月焦らした女。本命彼女に選ばれたのは?
- PR
2025.03.31
結婚1年目から、激務のせいでギスギス…。崩壊寸前のパワーカップルを救ったアイテムとは?
2022.07.25
公園の魔女たち〜幼受の世界〜
公園の魔女たち〜幼受の世界〜:「港区は、小学校受験では遅いのよ」ママ友からの忠告に地方出身の女は…
2019.12.24
格差婚~僕の3倍稼ぐ妻~
格差婚~僕の3倍稼ぐ妻~:夫の年収680万、妻2,200万。超ハイスペ妻と結婚した男が受けた、強烈な洗礼
- PR
2025.03.31
えっ、あの“ミャクミャク”の部屋に泊まれる!?どっぷり万博に浸れる、いまだけのホテルステイとは…
2021.09.08
今はもう、なんでもないから
今はもう、なんでもないから:社内恋愛を告白した女。直後、後輩女子が見せた反応に…?
- PR
2025.02.12
【豪華プレゼントが当たる】「所有欲が掻き立てられます…」人気セレブ夫婦が魅了された“マセラティ”の車とは
2024.02.20
今日、私たちはあの街で
上京4年の26歳女子。美人で性格良しの芦屋育ちのお嬢様が、アプリで男から避けられる理由とは
- PR
2025.03.27
7種類ものフレーバーが楽しめる! この春、台湾生まれのフルーツビールが話題!
- PR
2025.03.28
ほろ酔い美女の正体とは!?17LIVEの人気ライバー4人を、港区のバーにお連れしてみたら…
東京カレンダーショッピング
ロングヒット記事
2025.03.19
運命なんて、今さら
初めて彼のマンションを訪れた28歳女。しかし、滞在10分で、突然「帰りたい」と思った理由
2025.03.22
男と女の答えあわせ【Q】
「豊洲に住んでいる」と33歳男が言った途端に、デート相手の女が戸惑ったワケ
2025.03.23
男と女の答えあわせ【A】
「年収800万くらいでもいいかな…」相手に求める条件を妥協したつもりの30歳女の大誤算
2025.03.17
1LDKの彼方
「何もないって言われたけど…」彼氏が他の女と連絡を取っていたことが発覚。30歳女は思わず…
2025.03.20
TOUGH COOKIES
「幸せそうな彼女がなぜ?」SNSで悪質コメントの犯人を突き止めたら、意外な人で…
この記事へのコメント