私のことを顔だけで判断する人はイヤ。
でも、美人だと思ってもらえないとイヤ。
美人扱いされないのも、イヤ。
美女として生きてきた人にしかわからない、圧倒的な矛盾―。
こんなこと、誰にも相談できるわけがない。もし女友達なんかに話してしまったら、どんな反応をされるか手に取るようにわかる。
―女友達からなんて、黙ってたって嫌われるんだから…。
美女がゆえに、周囲から嫉妬されることも多かった学生時代。周りへの振る舞い方は人一倍気を使ってきた。
「…ねぇ、奈津子きいてる?」
美緒から名前を呼ばれ、ふと意識が目の前に戻った。
「奈津子って映画好きだったよね?」
「うん、好きだけど」
「私が担当してる取引先の人がね、毎月“映画会”っていうのを開いてるらしくて。映画好きな人が集まって、お酒をのみながら作品について語る会なんだって。
で、その中の女性メンバーが転勤になって来れなくなるから、代わりの人を探してるみたいなの」
「何それ、めちゃくちゃ面白そうじゃん!…参加してみようかな」
「それでは、奈津子さんの加入を祝して!」
「カンパーイ!!」
2週間後、奈津子は『BEER&246 aoyama brewery』で開かれた“映画会”に参加していた。ここではローテーションで決まる幹事が、お店と課題映画の選定を行うらしい。
今回の幹事は山本克弘(かつひろ)。製薬会社で人事をしているという。
年は30代後半くらいだろうか?
背は高いが、そのぶん横幅も大きい。人事部にいるからか清潔感こそあるものの、容姿はお世辞にも良いとは言えない。
―う~ん。中の下、かな。私は好きじゃない。
そんな克弘が選んだ映画は『センター・オブ・ジ・アース』。奈津子がこれまでに何度となく観てきたお気に入りの映画だったこともあり、そのチョイスにはかなりテンションが上がっていた。
お酒の勢いも相まって、感想を語る奈津子の口は止まらない。
満足気に語り終えた瞬間、横から強い視線を感じてそちらを振り向く。すると克弘の小さく歪な形をした目が、奈津子を見つめていた。
―もしかして、初参加なのに出しゃばりすぎちゃった…!?
そう心配しているうちに、克弘の視線はフッとそらされてしまう。映画会は楽しかったが、克弘の何かを訴えるような視線が、ほんの少しだけ気がかりだった。
▶︎NEXT:3月23日 月曜更新予定
せっかく楽しい場所を見つけた奈津子だったが、職場でも「美人ゆえの」苦労は続く…。
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この記事へのコメント
透き通るような白い肌
アーモンド型の目
通った鼻筋
鈴木その子か?
「嬉しいけど、人に見られず静かに生きていきたい」と。羨ましいけど美人は美人で大変なんだよね。