2020.03.16
美女の憂鬱 Vol.1街を歩けば思わず振り返ってしまう。だけど目が合えば、逸らしてしまいたくなる。
誰もが羨望の眼差しを向ける、美しい人。…しかし、美女には美女にしかない悩みがあるのだ。
「人生の勝ち組」だと囁かれ続け、早29年の奈津子もそのひとり。
―誰も本当の私なんて知ろうともしない。
これは、そんな美女と美女に恋した二人の男の物語。
「え…?三条さんのどこが好きか、って?」
表参道の『東京十月』で食事をした帰り道、同期の早川から告白を受けた三条奈津子は、あからさまに目を泳がせる早川の顔をジッと見つめていた。
「そう。私のどこを好きになって告白してくれたの?」
「そ、そうだな…。三条さんは営業成績もトップクラスだし、あとは…なんといっても美人さんだから、かな。三条さんの顔、すごくタイプなんだ」
少しでも、一瞬でも、期待した自分が馬鹿だった。
―結局、顔だ。みんな私の顔が好き。
「…私は早川くんの顔、タイプじゃないから付き合えない」
奈津子がそう切り捨てた直後、早川の顔が引きつったのがわかった。
「そ、そうか。急に変なこと言ってごめん。じゃあ、また」
早川は少し怒ったように、その場を足早に去って行く。
―「顔が好き」って告白されたから「顔が好きじゃない」ってお断りして、どうしてあんな嫌な顔されなきゃいけないの?あれじゃ、まるで私が悪いみたい。
奈津子は泣きたい気持ちになりながら、タクシーを拾った。
この記事で紹介したお店
東京十月
「嬉しいけど、人に見られず静かに生きていきたい」と。羨ましいけど美人は美人で大変なんだよね。
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