育休とってくれる?
「産休のみだよ。すぐに仕事復帰する予定。持ち患さんもいるし」
「モチカン…?っていうか、2ヶ月で復帰するってこと!?」
驚いた彩子が目を丸くすると、「そうよ。あ、モチカンっていうのは、受け持っている患者さんのことね」と、里穂はサラリと答えた。
「うっそー!信じられない!」
大きな声で騒ぐ彩子の隣で、玲は里穂に心の底から共感していた。
「えー、私も里穂に賛成。ブランクが空くのは怖いし、早く仕事戻りたいよ」
「やっぱり仕事は好きだしね。玲もそうじゃない?」
共感を求められた玲は、「おっしゃる通り」と、大きく頷いた。
しかし、彩子だけは二人の考えに付いていけないようで、「バリキャリは違うのね…」と、呆然としていた。
「このお鍋、本当に美味しい〜!さすがこうちゃん」
康太が作った、水菜と鶏肉のハリハリ鍋を一口食べた玲は、幸せそうな表情を浮かべた。
平日夜、玲は会社で夕食を済ませる。コンビニで買ったお弁当などが多いらしいが、忙しくて、栄養ドリンクのみということもしばしばあるようだ。
超多忙な毎日を送る彼女に、少しでも身体に良いものをと、康太は野菜と愛情たっぷりのお鍋を作ったのだ。
「これ、付けると美味しいよ」
そう言って康太が『松輪』の柚子胡椒を出すと、彼女は思わず「きゃっ、嬉しい!」と声を上げた。
ハフハフ言いながら美味しそうに食べていた玲は、「そういえば」と、口を開いた。
「里穂が近々出産予定なの。来月初めにベビーシャワーやろうと思って。うちのパーティールームでも良いかな?」
「いいんじゃない、俺も手伝うよ」
すると玲は首を振り、「飾り付けとかお料理は、基本的に業者さんに頼むから。こうちゃんの手は煩わせないようにする」と、答えた。
−仲間内のパーティーに業者…か。
随分仰々しいなと、少し引っかかったが、玲が仲の良い友達は、女医とお嬢様だ。
住む世界が違う人たちなのだろうと、自分に言い聞かせる。しかし、玲の次の言葉に、康太は耳を疑った。
「そうそう、里穂がね、育休は取らずに産休2ヶ月で復帰するんだって。
仕事のことを考えると私もそうするべきだと思うんだけど、彩子はちょっと驚いてた」
「え、え…?」
しかし玲は、動揺する康太にはお構いなしで続ける。
「あんまり長い間休むと、復帰した時が怖いじゃない? だから、出来るだけ早く復帰したいよね。そう考えると、職場復帰から逆算して保活もしておかないといけないなって思った。
港区は比較的充実しているって聞くから大丈夫かなあ?ダメなら、ベビーシッターさんに頼むしかないよねえ」
どんどん話を進めていく玲を遮り、康太は思い切って尋ねてみた。
「玲も、子どもが産まれたら育休は取らないってこと?」
すると、彼女は「もちろん」と言った後、茶目っ気たっぷりにこう続けた。
「それとも、こうちゃんが育休を取ってくれる?」
「そ、それは…」
康太はこの時、超ハイスペ妻と結婚するということの意味を、まだ十分には理解していなかったのだ。
▶︎Next:12月31日 火曜公開予定
迎えたベビーシャワー。妻の友人と会った夫は、さらに違和感と溝を深めることになるが…?
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この記事へのコメント
夫の方が、奥さんに育休頼まれたから取ったのに…とか、俺がサポートして色々やってあげてる、そうでないと関係が成り立たない…と思ってるようじゃ先々辛いと思う。俺が望んでやってる、の状態に...続きを見るなれないならそもそも手出しすべきじゃない。
男女の格差が、どっちが上になるかに関わらず、関係の試金石なだけだよ。
私自身は自分で育てたい派だけど、それでも「女が育休とって当然、俺は育休取らないのも当然」という考えには逆に驚き(産休は女なんだから、育休はパパがとって?)