超ハイスペ妻との結婚生活
福島康太、33歳。同い年の妻・玲とは、結婚2年目だ。
康太は、精密機器メーカーの調査部で働いている。一方の玲は、外資系の戦略コンサルティングファームで働く敏腕コンサルタントだ。
二人の出会いは、4年前。康太の会社のプロジェクトだった。
それは当時、新たに就任した社長が、“事業の選択と集中”を宣言し、大幅に事業の見直しをするために立ち上げた、肝いりのプロジェクト。
康太も調査部枠でアサインされたその案件に、玲がコンサルタントとしてやってきたのだ。
−きれいな人だな。
社長以下、おじさんばかりの会議の中で、玲の存在は一際目立っていた。
黒髪ボブに色白の肌。意志の強そうな大きな瞳が印象的な、パールのイヤリングがよく似合う、実に清楚な雰囲気の女性だった。
「どうぞよろしくお願いします」
美しいお辞儀とともに玲が挨拶をした時、自分も含め、周囲のおじさん達の鼻の下は伸び伸びだったと思う。
むさ苦しい会議のオアシスになるだろう。玲の登場に、誰もが浮かれた。
しかし、彼女の本当の姿を知ることとなったのは、2回目の会議だった。
「こちら、分析資料です」
彼女が配布した資料を見た康太は、驚きのあまり言葉を失った。よくここまで調べあげたなと、調査部の自分も感動するレベルの内容だったのだ。
−この人、すごいな。
しかし、それは社内政治や忖度を無視した、あくまで現実を浮き彫りにした資料だったため、大きな波紋を呼んだのも事実だ。
会議の参加者の中には、怒り出す者も多くいた。
「ちょっと待ってくれ、うちの事業だって頑張ってるんだよ」
「社外の人間が。何もわかっていないくせに」
「結果だけで判断するな。この事業には歴史があるんだ」
腹を立てた役員が「帰る」と、席を立った時にはその場が凍りついたが、彼女は毅然とした態度で、「これが現実です」と、言い放ったのだ。
あの時の空気と言ったら、今思い出しても胃が痛くなるが、様々な人間と衝突しながらも、玲は結果的にプロジェクトをまとめ上げた。
仕事熱心な彼女の姿に惹かれた康太がアプローチし、交際が始まった。
康太は、玲を心から尊敬していた。ドタキャンのリスクが高い彼女に気を遣わせないよう、レストランの予約は控えた。
また、万年睡眠不足の玲がいつでも休めるように、デートはもっぱら彼女の部屋。
彼女が休んでいる間、食事を作ったり、あれこれサポートしていた。
仕事人間の玲には、こういった康太の細やかな心遣いが嬉しかったらしく、また妙齢だったこともあり、自然な流れで結婚に至った…。
と、いたって普通のカップルなのだが、特筆すべきことといえば、収入格差が3倍以上あることだろうか。
3,000万近い世帯収入があるが、そのうちわけは玲が2,200万、康太が680万円。
仕事は超人的に出来るが、家事はめっぽう苦手な玲に代わり、康太が家事全般を担当している。
もともと大学時代から一人暮らしをしていた康太は、家事全般が得意で苦にならないのだ。
住まいは、玲の職場から徒歩7分の溜池山王で、康太の収入だけではとても住むことの出来ない高級マンションだ。
激務の玲は、帰宅が0時を過ぎることも多い。彼女が思う存分仕事に打ち込めるようにこの立地を選んだ。
◆
「里穂、お腹大きくなったね」
玲は、雙葉中学時代からの仲良し・里穂と彩子と『フレンチキッチン』に集まっていた。
中学時からの仲良し3人組で、里穂と玲は中学からの受験組、彩子は附属幼稚園からの生粋のお嬢様だ。
里穂は、都内のレディースクリニックで働く医師で、近々出産予定。彩子は、父親の会社が持っているギャラリーで働いている。
久しぶりの再会で話に花を咲かせていると、彩子が里穂に尋ねた。
「里穂は、どれくらい育休取るの?」
この記事へのコメント
夫の方が、奥さんに育休頼まれたから取ったのに…とか、俺がサポートして色々やってあげてる、そうでないと関係が成り立たない…と思ってるようじゃ先々辛いと思う。俺が望んでやってる、の状態に...続きを見るなれないならそもそも手出しすべきじゃない。
男女の格差が、どっちが上になるかに関わらず、関係の試金石なだけだよ。
私自身は自分で育てたい派だけど、それでも「女が育休とって当然、俺は育休取らないのも当然」という考えには逆に驚き(産休は女なんだから、育休はパパがとって?)