200億の女 Vol.22

「既婚者と付き合ってるの?」何も知らない女の質問に、男が伝えた非情な真実

騙されたのは女か、それとも男か?
「恋」に落ちたのか、それとも「罠」にはまったのか?

資産200億の“恋を知らない資産家の令嬢”と、それまでに10億を奪いながらも“一度も訴えられたことがない、詐欺師の男”。

そんな二人が出会い、動き出した運命の歯車。

◆これまでのあらすじ

詐欺師・小川の思惑通り、夫と離婚してしまった智。小川と一緒に訪れたアフリカで、二人はついにキスをし、付き合うことになる。


―別れた相手と会うのは、初めてだな。

関係を終わらせた相手とは二度と会わずに、完璧に姿を消す。

貫いてきたセオリーを初めて破ったことに、親太郎はある種の気持ち悪さのようなものを感じながら、富田葉子を待った。

5分程遅れてきた葉子は、親太郎の対面に座りながら、またここに来れて嬉しい、と言った。広尾のフレンチビストロ。この店で会うことを希望したのは葉子で、ここは最初に2人で夕食を食べた、つまり初めてデートをした店だ。

カジュアルな店だがワインリストが素晴らしく、それを目当てに来る人が多い。あの日と同じ席は空いておらず、今日は店の一番奥、半個室になっている小さな2人がけのテーブルだ。

最初にオーダーしたシャンパンは、アンリ・ジローのグラン・クリュで1998年。確かあの時は1999年のものだったけれど、同じ作り手のものを選んだことを、葉子は気がついているだろうか。

「乾杯、っていうのも何か変かな」

親太郎がそう言ってグラスを掲げると、葉子は曖昧に笑い、アフリカはどうだった?と聞いてきた。

神崎智の直属の部下である彼女だから、例えプライベートに近い渡航であっても、スケジュールを共有しているのだろう。

親太郎は当たり障りのない話だけをかいつまんだ。シャンパンを、1口、2口と、口に含みながら相槌を打つ葉子はにこやかで、一通り聞き終わると言った。

「親太郎さんの話の前に…先に、私から話してもいい?」

葉子の返信は『神崎さんのこと?』だったな、と思いながら親太郎が頷くと、葉子は小さな深呼吸をしてから喋り始めた。

「私が、別れたいって言った時のこと覚えてる?」

「もちろん。一言一句覚えてるよ。疑って泣いて、イライラして醜い自分が嫌だから、もう離れたい、耐えられそうにないって言ったよね。片思いに疲れたって。忘れられるわけないよ」

そう言って寂しそうに微笑んだ親太郎に、葉子が答えようと口を開いたそのタイミングで、お通しが運ばれてきた。

キノコと百合根の温かいポタージュ。小さなカップの中身を陽気に説明する店員の間の悪さに、気まずい空気が流れる。葉子は店員が立ち去るのを待ってから続けた。

「私ね、身勝手なことはわかってるんだけど…今日は覚悟を決めてきたの。その…私達が別れることになったのって…本当に些細な喧嘩がきっかけだったじゃない?」

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