200億の女 Vol.20

「私は人を愛せない人間かも…」。離婚したばかりのセレブ妻が、人知れず抱える葛藤

騙されたのは女か、それとも男か?
「恋」に落ちたのか、それとも「罠」にはまったのか?

資産200億の“恋を知らない資産家の令嬢”と、それまでに10億を奪いながらも“一度も訴えられたことがない、詐欺師の男”。

そんな二人が出会い、動き出した運命の歯車。

◆これまでのあらすじ

詐欺師の策略に気づかぬうちに嵌っていく智は、ついに夫との離婚を宣言してしまう。その頃警察の再捜査も始まり…詐欺師の味方のはずだった田川弁護士はまさかの密告ををする!?そして、アフリカ・ガーナで、智と詐欺師の恋が動きだしてしまう!?


いくつかの団体に分けて寄付をする…」

言われたことをただ繰り返すだけになった私に、小川さんの口調は諭すようなものになった。

「そんなに急ぐなんて…智さんらしくないですよ」

「…はやくスッキリしたいんです。手放すものを手放さないと進んじゃいけない気がして」

「お父さんから独り立ちしたい、っていう決意は分かりますけど、何も全てを手放す必要はないと思うんだけどなあ。代々の資産を譲られたとは言え、既に智さんの財産なわけだし」

智さんは真面目だからなあ、と言って笑った小川さんに、笑い返しながら、ふと不思議な気持ちになった。この人とこんなに打ち解ける日が来るなんて。

父と揉めた席に同席した小川さんには、その後顔を合わせる度に心配そうに状況を尋ねられた。そのうちに、この勘の良い人を誤魔化し続けることも難しくなり、父とのこと、そして夫と話し合っていることを、報告するようになっていた。

小川さんは私の話をただ黙って頷きながら聞いてくれるだけで、何か意見をいうことはなかった。否定されることがなかったことで、私は楽に喋ることができたのかもしれない。

何度か食事にも連れ出してくれた小川さんに、私はこれまで誰にも…もしかしたら、夫の大輝にさえ、きちんと話せたことがなかった、父へ抱き続けたコンプレックスのことも、話してしまったのだ。ただ。

―離婚したことは、言えてない。

なぜ、それを伝えることをためらってしまうのか自分でも分からないまま、今日までなんとなく口にできずにいる。

「仮に、今持っているものを、寄付という形で手放したとして、今後智さんはどうするつもりなんですか?」

小川さんの問いは優しかった。

「今責任者として関わっているプロジェクトが何本かあるので、それを全うしたら、会社を辞めようと思っています」

「そのあとは?」

「…どうでしょう。でもともかく、まずは愛香のお母さんとして、頑張りたいな、って」

誤魔化すような返事になってしまったことは、小川さんに気づかれてしまっただろうか?

愛香のことを1番に考えたいというのは嘘じゃない。でも私は今迷いの中にいる。

「冷めちゃいますよ」

顔を覗き込むような小川さんの仕草に、私はスプーンを持った手が止まっていたことに気がついた。

「ちょっと遊びに行きませんか?今夜の宿を変えましょう。智さんを連れて行きたい場所があるんです」

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