マルサンの男 Vol.10

「あなたはとんでもない人だ…」男を知るために、29歳の女がやった禁断の行為とは

男も女も、誰だって恋愛しながら生きていく。

だから愛するカレには、必ず元カノがいる。

あなたの知らない誰かと過ごした濃密な時間が、かつて存在したかもしれないのだ。

愛するカレは、どんな相手とどんな人生を歩んでいたのか――?

幸せ未来のため、相手の過去を知ることは、善か悪か。

あなたは、愛する相手の過去が、気になりますか?

◆これまでのあらすじ

29才の南美は、6才年上の恋人・数也がプロポーズを考えていると知り、幸せの絶頂にいた。だが同時に、彼の2度の結婚歴がどうにも気になっていく

1番目の妻・竹中桜2番目の妻・福原ほのかそれぞれと密会し、誤解を解き、不安を乗り越える南美。

だが元妻たちとの密会に気づいた数也から別れを告げられてしまう。くわえて親友・茉里奈も、かつて数也と交際直前まで関係を築いていたと発覚した。

恋人と親友を同時に失った南美に追い打ちをかけるように、数也の結婚歴はなんと、2度でなく3度だと判明して…。


数也が学生結婚した相手、平木真穂の実家は、世田谷区の閑静な住宅街にあった。

秀人の情報どおり、そこは3代続く老舗の蕎麦屋。

古き良き店構えはどこか懐かしく、のれんをくぐると、温かみのある雰囲気になんだかほっとする。客は家族連れだけでなく、若いカップルも多い。

「いらっしゃいませー。こちらの席でお願いしますね」

厨房に男性がひとり。注文を取って蕎麦を運ぶ女性がひとり。

夫婦に見えるが、平木真穂の両親だろうか。テキパキと手際よく店を回していた。

南美は二人の顔を見て、会ったことも見たこともない数也の最初の妻の顔を想像してみる。

注文から5分も経たないうちに、天せいろが出てきた。

つゆがよく絡んだ蕎麦は、噛めば噛むほど味が深まり、天ぷらは、罪悪感を忘れるほどにサクサクとした軽やかな衣で、素材の旨味を凝縮している。

思わず南美は呟いた。

「おいしい…」

するとその声が聞こえたのか、店の女性が微笑みを投げかけてくる。

食べ終わると13時30分を回っていた。まもなく昼間の営業が終わる時間だ。

「あの、本当に、とてもおいしかったです」

会計を終えた南美は、女性に向かって言った。

「ありがとうねえ。褒められたわよ、お父さん」

女性はクシャッとした笑顔を見せてから、厨房へ声をかけた。

二人はやはり夫婦のようだ。きっと真穂の両親だ、と南美は確信した。

真穂の父は気難しい顔を変えず、下げられたせいろを洗いながら、軽く手を挙げるだけだ。

「ごめんなさいね。愛想が良くないのよ」

大丈夫ですよ、と南美は小さくかぶりを振る。

「見ない顔だけど、この辺にお住まいなの?」

「いえ。家は少し離れてて」

「珍しいわね。ウチは初めてでしょ?」

「はい…」

南美は勇気を振り絞って告げる。

「実は、お二人に伺いたいことがあって、ここに来たんです」

途端に、真穂の母は怪訝そうな顔をした。

「私たちに聞きたいこと?」

「はい。失礼をお許しください。…私、平木真穂さんについて、お聞きしたいんです」

その瞬間、厨房にいた真穂の父の手が止まった。

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