マルサンの男 Vol.1

マルサンの男:彼の過去なんて、関係ないはずだった…。結婚に浮かれる29歳女が、男に抱いた不信感

男も女も、誰だって恋愛しながら生きていく。

だから愛するカレには、必ず元カノがいるもの。

あなたの知らない誰かと過ごした濃密な時間が、かつて存在したかもしれないのだ。

南美と結婚間近の完璧なカレ・数也には、ある過去があった。

そして、ふとしたことをキッカケに、信頼していたカレの行動に疑念を抱き始める。

愛するカレは、どんな相手とどんな人生を歩んでいたのかー?

幸せな未来のため、相手の過去を知ることは、善か悪か。

あなたは、愛する相手の過去が、気になりますか?


「そろそろ、結婚しようかなって思ってる」

心臓が、ドクンと跳ねた。

上条南美は、柱の陰に身を潜めたまま、全身がカーッと熱くなるのを感じる。きっと耳は真っ赤になっていることだろう。

「来月、付き合って2年になるから、その時のディナーでプロポーズかな」

藍沢数也は、南美が柱の陰にいることに気づかず、向かいに座る男性に向かってそう言った。

表参道の骨董通り。南美が数也と待ち合わせに使う、いつものカフェ。

二人の家から近いだけでなく、「世界一おいしいクロックムッシュが食べられる」と二人が口を揃えるその店のテラス席で、数也は男友達と話をしていた。

遅れて店に着いた南美は、図らずも、その会話を立ち聞きすることになってしまった。声をかけるタイミングを完全に失い、そこから一歩も動けずにいる。

―そろそろ結婚。ディナーでプロポーズ。

柱の陰から出ていけば、すぐにテラス席だ。南美は熱くなった心と体を落ち着かせ、何食わぬ顔で歩き出す。

「おっ、南美」

数也の顔がパッと明るくなる。

「ごめん。待たせちゃって」

南美は平静を装った。けれど、どうしても声が震える。…いや、弾んでいる。

「こいつは俺の大学からの友達で。偶然ここで会ったんだけど…」

数也が友達を紹介し、彼はにこやかに挨拶してくれた。

だけど南美の耳には、友達の名も、大学時代の男同士の思い出も、ほとんど入ってこなかった。

仕方がない。数也が結婚を考えていることを知り、南美の心は舞い上がっていた。

朝の空は、どこまでも高く澄み渡っている。ハイヒールを脱ぎ捨て、今すぐにでも走り出したい気分だ。

鼻筋の通った綺麗な数也の横顔を見つめながら、南美は決意した。

―私が、数也さんを幸せにするんだ。絶対に。

「結婚」。それは南美にとっては初めてだが、実は、数也にとってはそうではなかった。

出会ったときには、すでに数也は2度の離婚歴があったのだ。

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