マルサンの男 Vol.1

マルサンの男:彼の過去なんて、関係ないはずだった…。結婚に浮かれる29歳女が、男に抱いた不信感

南美にはモットーがある。

「迷ったら走れ」。

別に陸上部だったわけではない。高校時代の南美は帰宅部同然の茶道部だったし、運動は苦手だ。

そもそも、「ヒールを履くなら高さ9.5センチ以上」と決めているのだ。ハイヒールで走ればたいがい足をくじくし、最悪、捻挫する。

歩けなくなれば、来週に迫った展示会に穴を開けてしまう。

PRとして転職して2年。ブランドの顔としてそれだけは避けたいから、実際には走らない。

迷ったら走れ、というのは、あくまで比喩だ。やるかやらないか迷ったら、やる方を選ぶのが南美の人生なのだ。

これは、仕事面においては大変有効だった。

新卒で入社したアパレルメーカーからキャリアをスタートし、2年前から念願だったハイブランドのPRとして働いている。

迷ったら行動を起こすことでキャリアを切り開いてきた。

しかし、こと恋愛面に関しては悪影響だった。

恋人の行動が心配になれば、すぐに彼のSNSをチェックする。浮気を疑えば、ベッドで寝ている彼の枕元のスマホを手に取った。

ダメだと分かっていてもやってしまい、それがバレて、次々にフラれてきた。

迷ったら南美は走る。…でも男は逃げる。

永遠の空回りだ。

だが、一生続くのかと恐れた悪循環も、数也と出会って終わった。


6歳年上の数也とは、転職直後に付き合い始め、そろそろ交際期間も2年に迫ろうとしている。

付き合っても、すぐに男に逃げられてきた南美にとって「ちゃんとしたカレ」は人生で二人目だ。

外資系自動車メーカーに勤める数也は、理想の相手だった。ルックスも収入も申し分ないが、特に内面が素晴らしい。

誰に対しても穏やかで、とりわけ南美には優しく、滅多に怒ることもなかった。

この2年間、喧嘩らしい喧嘩は一度もしたことがない。

女性が喜ぶツボのようなものを抑えているし、家事全般を難なく一人でこなす。

美味しいゴハン屋さんをたくさん知っているのに、ネットの一夜漬けで覚えた南美の手料理を褒めちぎってくれる。

それでいて「小さい頃からずっと車が好きだから今の仕事についた」と発言する、少年のような可愛げも残していた。

要するに、完璧な男だ。

唯一の気がかりな点が、2回の離婚歴だった。

南美もはじめは戸惑ったし、親しい友人からも、数也がバツ2であることを心配されてとやかく言われたものだ。

でも、彼の人柄の素晴らしさを確信していくにつれ、気にするのはやめようと思えるようになった。

数也は35才とまだまだ若いし、2度の結婚において子供もいない。

今の時代、離婚は決して珍しいことじゃない。それどころか、2度の失敗が、数也を男として成長させたはず。

ならば2度の離婚には感謝こそすれ、気を揉むことではないのだ。

ー「バツがつく」なんて言い方が、そもそもネガティブすぎるから嫌だわ。バツ2じゃなくて、むしろマル3と呼んでもいいくらいだよね。

自分と3度目の結婚に踏み出そうとしてくれている数也のことを想い、南美はそんな風に考えるのだった。

この記事へのコメント

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No Name
バツ2はやばいって。離婚って相当なエネルギー使うのに、それでも別れを選ぶって、(奥さんに浮気されたとかじゃない限り)性格か何かに問題があるのでは?と思うよ…
2019/09/01 05:5499+返信11件
No Name
バツ2の理由を2年間何も聞かずに結婚を決められるの、逆にこわい。笑
2019/09/01 07:4499+返信2件
No Name
今までそれで失敗しているのに、結局走るとは😅
男の行動は女よりのんびりしているけれど、そのうち自分から話してくれたり行動してくれたりするもの。女の先走りは悪い結果を引き寄せる。
2019/09/01 05:3991返信2件
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