マルサンの男 Vol.1

マルサンの男:彼の過去なんて、関係ないはずだった…。結婚に浮かれる29歳女が、男に抱いた不信感

南美と数也は休日のモーニングをコーヒーだけで済ませ、友達と別れ、店を出た。

クロックムッシュをオーダーしなかったのは、1時間後には南青山の『アクアパッツァ』でパスタを堪能するからだ。

「でもウチの親父は、朝ご飯しっかり食べてきそうだなぁ」

手を繋いで歩き出すと、数也が言った。

数也の父・昭一は、仕事をリタイアしたことを機に夫婦でハワイへ移住し、悠々自適の生活をしている。

そして今回、かつての仕事の事情で、ひとりで東京に来ているらしい。良い機会だからと、数也はランチをセッティングしていた。

結婚の約束もしないまま数也の親と会うことに、南美は少し混乱していた。

しかし、ついさっき、友達との会話を立ち聞きして確信した。

いよいよ結婚するのだ、と。


数也と顔がそっくりな昭一との初対面で、その確信はさらに深まった。

昭一は南美のことを「我が家の未来のお嫁さん」として扱ってくれた。

「結婚式はハワイにしなさい。こっちで全部手配するから」

「えっ…えーっと…」

「やめろよ親父。南美が困ってるだろ」

「はっはっは」

上機嫌な昭一は、健康的に日焼けした顔に笑みを絶やさぬまま、パスタソースまで綺麗にたいらげ、ワインもしこたま飲んでいた。

口の中いっぱいに美味しそうに頬張る姿は、息子とそっくりだ。

南美は、愛する人の父を、本当の父のように愛せる気がした。

「そんな酔っ払って仕事の人と会えるの?」

店を出た後、数也は心配そうに昭一へ問いかけた。

昭一は、大丈夫大丈夫、と答えてから南美の手を握った。

「今後とも息子をよろしく。頼んだよ。"ほのかさん"」

「……えっ」

「おいっ。なに言ってんだよ…!彼女の名前は南美」

「ん?」

昭一は心地よさそうに酔っていて、軽率なミスに気づいていない。

一方の数也は、きちんと南美に頭を下げた。

「ごめん。気分を悪くしたよね。親父には酔いが覚めたら説教しとくから」

「いいよ。大丈夫。これぐらい気にしない」

「本当に、ごめん」

二人のやり取りを見ていた昭一は、やっと言い間違いに気づいたらしく、青ざめた顔で「南美さん、申し訳ない」と呟いた。

数也も「親父に飲ませすぎた」とうつむいている。

父と息子はシュンとする姿までそっくりなものだから、南美は笑った。

「二人とも大丈夫です。本当に気にしてないので」

南美が笑ったからか、数也と昭一は安堵したように顔を見合わせ、場が和む。

―こういうことも、たまには、起こる。

南美は自分にそう言い聞かせた。

この記事へのコメント

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No Name
バツ2はやばいって。離婚って相当なエネルギー使うのに、それでも別れを選ぶって、(奥さんに浮気されたとかじゃない限り)性格か何かに問題があるのでは?と思うよ…
2019/09/01 05:5499+返信11件
No Name
バツ2の理由を2年間何も聞かずに結婚を決められるの、逆にこわい。笑
2019/09/01 07:4499+返信2件
No Name
今までそれで失敗しているのに、結局走るとは😅
男の行動は女よりのんびりしているけれど、そのうち自分から話してくれたり行動してくれたりするもの。女の先走りは悪い結果を引き寄せる。
2019/09/01 05:3991返信2件
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