女たちの選択~その後の人生~ Vol.3

第一子出産後、まさかの「産後鬱」に陥った33歳・美人妻の葛藤

「夫から見たら、相当危険に見えたんでしょうね。もともと彼は子育てに協力的でしたが、私はいつもイライラしたり泣いてばかりだったので...」

それでも当時、由里子は生後間もない息子を外に預けるのに抵抗した。夫にまで“母親失格”の烙印を押されたような気分になったのだ。

そんな彼女に、夫は冷静に語ったという。

—君は母親だから当然って思っているかも知れないけど、育児は本当に大変だよ。由里子はよく頑張ってる。でも、この状況が続くのは何のプラスにもならないよ。

「思えば夫は、私なんかよりずっと早い段階で“父性”を持っていました。高価なカメラを買って何百枚も息子の写真を撮ったり、突然大量に服を買ってきたり。そんな彼に嫉妬のような苛立ちを覚えることもありました。生後3ヶ月くらいまで、私のカメラロールにはほとんど息子の写真はないのに...」

由里子の目が、少しだけ赤くなる。

「なのに、不思議ですよね。はじめて息子を保育園に預けたとき、最初から最後まで近くを離れられなかったんです。泣いてないかな、寂しくないかな、先生に放っておかれてないかな、なんて心配で...。久しぶりに1人でゆっくり贅沢なランチをしようって張り切ってたのに」

そう言い終えると、彼女の目からは大粒の涙がポロリと流れた。

苦悩の末に導き出した、自分なりの子育て


結局由里子は現在、息子を保育園に預けている間は知人に紹介された外資系の小さなメーカー会社で働いている。

「仕事といっても、時短で雑務をしているだけですが...。それでわざわざ子どもを預けることに、罪悪感は常にあります。保育料と私のお給料もほとんど同じだし...」

さらに由里子は、休日も夫やシッターの手を借りて、美容院などにも定期的に通っているという。

「今となっては、普通の母親よりずっと楽をしているかも知れません。自分でもダメな母親だと思うし、この選択が正しいのかも分かりません。でも結局、離れる時間がある方が、私にも息子にも良かったんです」

自分の時間を犠牲にするより、優先する方が良き母でいられる。由里子は最終的にそう悟った。

「それに最近、息子はよく笑うようになって、やっと心から可愛いって思える余裕ができたんです...」

そう言って恥ずかしそうにスマホを見せてくれた彼女の顔はまさに“母親”そのものであり、待受画面には可愛い赤ちゃんの笑顔があった。



一般的に、人間の赤ん坊ほど何もできない状態で産まれる生物は、ほとんどいないと言われる。

集団で子を守り育てるというのは極めて根源的な営みであり、母親1人の手に負えないのは当然なのだ。

しかし昨今は核家族化が進み、近所付き合いすらなく、祖父母すら頼れない母親も少なくない。

さらには、世間では“マタハラ”という嫌がらせが横行し、妊婦や子連れが公共機関を利用するのは肩身が狭い思いすらする。

子育ては決して“他人事”ではないことを、我々はもっと意識すべきなのかもしれない。


▶NEXT:7月13日 土曜更新予定
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