SPECIAL TALK Vol.48

~VRによる体験がガラパゴス化した医療を変えていく~

人体の3Dデータを集積するプラットフォームを作る

金丸:今でこそオープンソースという考え方が浸透し、GitHubのようにオープンソースを集積するプラットフォームもありますが、2003年の時点ですでに公開していたというのは、ジュネーブ大学の先進性を感じます。

杉本:そうですね。実は今、私たちも医療界におけるGitHubを目指していまして。

金丸:そうなんですか。それは素晴らしい。

杉本:患者さんのレントゲン画像そのものは個人情報なので、そのままでは公開できません。しかし、3DのCGと同じようにx軸、y軸、z軸の座標に置き換えて、元の画像とは異なる立体的なデータに加工すれば、匿名性を保つことができます。

金丸:そうすれば様々な症例データを蓄積できますね。

杉本:個人個人で臓器の形も症例も違いますから、より多くのデータを集めて誰もが利用できるプラットフォームにしたいんです。個々に適切な治療を提供するための素地になればと考えています。それに、これを活用すれば、新しい症例を生み出すことも可能です。

金丸:どのようにして作り出すのですか?

杉本:たとえば、Aという患者の肝臓のデータに、Bという患者の癌のデータを入れ込んで3Dプリンタで出力すると、本物の肝臓癌と見分けのつかない〝症例〞ができあがる。

金丸:画期的ですね。

杉本:実際に医者に見せてみましたが、別々のデータを組み合わせたものだと気づいた人は一人もいませんでした。まさに、ここがすごく重要なポイントで。素晴らしいコンテンツやプロダクトって、ごく自然だし、わかりやすいですよね。

金丸:そうですね。反対に「これを作るのは、大変だったろうな」と思わせるものは、どこかいびつで、引っかかりを感じます。

杉本:そうなんです。だから、私たちが苦労の末に作り出した症例に違和感がなかったというのは、それだけいい技術だという証拠です。一方で、いつまでも裏で大変な思いを続けるわけにはいかないので、今はAI(人工知能)を使って、作業をほぼ自動化しています。

金丸:ということは、AIに読み込ませる大量の教師データが必要ですが。

杉本:私たちは2004年にデータの収集を始めたんですが、ようやく日の目を見たという感じがします。もちろん最初は、こういう活用法があるとは思ってもいませんでした。しかし、考えてみると、日本は国民皆保険制度によって国民全員を公的医療保険で保証しており、レントゲン画像やCT画像などのデータを世界で最も保有しています。

金丸:健康診断で毎年当たり前のように撮っていますが、そのデータに大きな価値があるのですね。

杉本:その通りです。この膨大なデータを利用しない手はありません。今も内臓や脳、心臓、骨などあらゆるデータをどんどん取り込んでいるところなので、早くサービスを体系化して、世界に展開していきたいです。

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