SPECIAL TALK Vol.48

~VRによる体験がガラパゴス化した医療を変えていく~

2020年のニューリーダーに告ぐ

空中に浮かぶリアルな臓器の立体画像を見ながら、手術の打ち合わせをする。

脳梗塞を起こした脳内に入り込み、どの血管が詰まったのかを確認する。母親のおなかを透けさせて、胎内にいる赤ちゃんと一緒に家族写真を撮る。まるで近未来の話のようだが、これらは今、VR(仮想現実)やMR(複合現実)によって、すでに実現されている。

様々な分野で実用化が進むなか、導入が遅れていた医療の現場に最新技術を持ち込み、次々に変革を起こしているのが、外科医の杉本真樹氏だ。

これまでの常識にとらわれず、イノベーションを起こしていくにはどうすればいいのか。杉本氏の足跡をたどりながら探っていく。

杉本真樹氏 医師・医学博士。

1996年帝京大学医学部卒業。外科医として臨床現場から医療・工学分野での最先端技術の研究開発と医工産学連携による医療機器開発、医療ビジネスコンサルティング、知的財産戦略支援や科学教育、若手人材育成に精力的に取り組む。医療・工学分野での最先端技術開発で多数の特許、学会賞などの高評価を受ける。2016年に最先端テクノロジーで医療コミュニケーションを革新すべく、Holoeyes株式会社を創業。

金丸:今回は、Holoeyes株式会社取締役兼COOの杉本真樹さんにお越しいただきました。お忙しいところ、ありがとうございます。

杉本:こちらこそお招きいただきありがとうございます。

金丸:本日は、南青山の『いち太』でお話を伺います。正統派の和食懐石を、気疲れしないよう、あえて少しだけその形を崩しているとか。〆には手打ちの十割蕎麦をいただけるそうです。

杉本:金丸さんとのお話はもちろんのこと、お料理もとても楽しみです。

金丸:杉本さんは医療ベンチャーの経営者であると同時に、現役の医師でもいらっしゃいます。本当にお忙しいでしょう。

杉本:お陰様で、自分で創業したHoloeyes株式会社の仕事を中心に、いくつかの病院で非常勤の医師として働きながら、大学と共同研究をさせていただいています。

金丸:2014年には、Apple社が選ぶイノベーター30名の一人にも選ばれるなど、医療の現場に新しい風を送り続けていらっしゃいますよね。

杉本:私はVR(Virtual Reality:仮想現実)やMR(Mixed Reality:複合現実)を医療に持ち込みましたが、それらの技術は、ほかの分野では実用化が進んでいるので、私が現場で使っているのも一般的なiPadだったり、ゲームで使われているVRヘッドセットだったりします。

金丸:医療機器は非常に高額なイメージがありますが、私たちの身の回りにあるITツールが、使い方次第でイノベーションを起こせるんですね。

杉本:そうなんです。技術の進化は本当に目覚ましくて、たとえば現実の世界に半透明の3D映像を重ねて映し出すゴーグルがあるのですが、これを着けると、臓器の立体的な映像が目の前の空間に現れます。その臓器の向きや大きさを自在に操れるだけでなく、複数の医師で同時に見ながら、「この部分を切開しよう」と打ち合わせをすることもできます。

金丸:お話だけ伺っていると、近未来のようです。

杉本:よく「最先端だ」と言われますけど、人の臓器は立体、つまり3次元ですよね。だから私としては、視覚的にもより自然な形に近づいていっているという感覚なんです。

金丸:なるほど。3次元のものは3Dで見たほうが理解できる。ただ、多くの医師がいながら、杉本さんのような発想には至らなかった。今日は杉本さんがどんな人生を歩まれてきたのかを伺いながら、なぜ医療に革新をもたらすことができたのかを探っていきたいと思います。

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