ゴール間近
「口にあってよかった。デザートもあるよ、抹茶プリン作ったんだ。拓斗、好きだよね?お茶、淹れるね」
香織は今日のために買っておいた、たち吉の急須を取り出して日本茶をいれた。そんな姿を見ていた拓斗は、満足気にこう言ったのだ。
「やっぱ、香織は最高だな。料理もできて気もきいて、さらに美人で性格も良くてさ。香織といるときが一番リラックスできるよ。ずっとこんな風に過ごせたら最高だろうな…」
この言葉を聞いた香織は一瞬、お茶を湯飲みに注ぐ手が止まった。驚きと緊張から、全身の血がドクンと大きく波打つような感覚に襲われる。
「え…、それって…」
そこまで言って、慌てて口をつぐんだ。ここで焦って聞いてしまっては、台無しにしてしまうかも知れない。けれど、ゴールまであと一歩だ。
香織は一瞬の間を置いて、すうっとゆっくり深呼吸をして自分を落ち着かせた。
「そんな風に言ってくれて嬉しい。私も、拓斗と一緒にいる時が一番私らしくいられるの」
香織は拓斗の目を見て、得意の“悩殺スマイル”を披露する。拓斗はおもむろに香織を引き寄せ、唇を重ねた。
「本当、可愛い」
二人の間に甘い空気が流れ、香織は最高の幸福感に身を包まれる。
その時、拓斗のデニムのポケットにあったスマホが小さく震えた。
「あ、ごめん、仕事の電話だわ。ちょっと出てくるね」
そう言って、ベランダに出て行く拓斗の後ろ姿を見つめながら、香織はさっきの言葉を反芻した。
—あれって…私と一生居たいってことよね?つまり、プロポーズみたいなものよね!
そう思った途端、思わず口元がほころんだ。顔に出さないようにしようとするが、もう止められない。
—ついに…、ついに私もここまで来たわ!これで後は、素敵なホテルかレストランでプロポーズをされるのを待つだけ!
拓斗と結婚したら、外国人の同僚と付き合ったりするのかな?次は英語か中国語の勉強を始めようかな。拓斗、私が話せたらびっくりするだろうな…
香織の妄想は止まらない。食器を片付けながら、婚約指輪は何がいいか、式場はどこにするか、など、様々な思いを巡らせた。
◆
「再来週に戻れるの?そっか、やっとだね。ずっと会いたかったよ。うん、うん、俺も愛してる」
拓斗はそっとLINE通話を切った。外ではしとしとと、静かな雨が降り注いでいた。雨の音で自分が言った言葉も全て洗い流されたように感じた拓斗は、何食わぬ顔で部屋に戻る。
部屋の中には、彼の遊び相手が、幸せそうな顔をして食器を洗って待っているのだ。
▶︎NEXT:6月25日 月曜更新予定
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最低すぎる!天罰が下ることを祈ります