崖っぷち妊活物語 Vol.12

イタめなほど幸せな「マタニティハイ」。35歳で念願の妊娠を果たした女に忍び寄る、嫌な予感

―私、もしかして...?ー

結婚相談所に助けられながら、気が遠くなるほど壮絶な婚活を経て、晴れて結婚ゴールインを果たした女・杏子。

一風変わったファットで温和な夫・松本タケシ(マツタケ)と平和な結婚生活を送り、はや2年。

34歳になった彼女は、キャリアも美貌もさらに磨きがかかり、順風満帆な人生を歩む一方、心の隅に不妊の不安を抱えていた。

藤木というスパルタ婦人科医の診察に憤慨し、患者をVIP待遇する病院に転院した杏子。

女子会マウンティングにもめげずに治療に励むが成果は出ず、とうとう藤木の元で体外受精に踏み切り“陽性”の結果を知らされた


何だか、足元がおぼつかない。

フワフワと雲の上を歩いているようだし、まるでクラゲにでもなったように全身がユラユラとしている。

極度の緊張から解き放たれた後、あまりにも大きな喜びを感じたせいか、頭も身体も麻痺したのだろう。

杏子は思い切って、自分の頰をぐぃっとつねってみる。

「イタッ」

加減が分からず思わず力を込めすぎて、予想以上の痛みが走った。だが同時に、またしても沸々と嬉しさが心の底から込み上げてくる。

—夢じゃないんだわ...。

すると、先ほど妊娠報告をしたマツタケからLINEの返信が届いた。

「まじか、まじか!!Congrats!!今日は肉?!お祝いに肉食べにいくしか!ステーキ?焼肉?すき焼き?やっぱり肉しか!」

スケボーで華麗なジャンプを決めているマツタケのプロフィールアイコンが、「肉、肉」と連呼している。

—お祝いじゃなくたって、いつも基本的に肉じゃない...。

杏子は自然と笑みをこぼしながら、心の中で夫にツッコミを入れた。

お腹の赤ちゃんも、父親のマツタケのように、やたらと運動神経の良い明るい子に育つだろうか。気が早いのは分かっているが、まだ見ぬ我が子の妄想が次々と頭を巡る。

“妊娠する”というのは、夫婦だけでは描けない、新しい未来を手に入れることなのかもしれない。

杏子はすでに、“マタニティライフ”の幸せに完全に浸かりきっていた。

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