崖っぷち妊活物語 Vol.8

「...本当に、子どもが欲しい?」仕事も夫婦関係も恵まれた女が、“子作り”に立ち止まる瞬間

―私、もしかして不妊...?ー

結婚相談所に助けられながら、気が遠くなるほど壮絶な婚活を経て、晴れて結婚ゴールインを果たした女・杏子。

一風変わったファットで温和な夫・松本タケシ(マツタケ)と平和な結婚生活を送り、はや2年。

34歳になった彼女は、キャリアも美貌もさらに磨きがかかり、順風満帆な人生を歩む一方、心の隅に不妊の不安を抱えていた。

藤木というスパルタ婦人科医の診察に憤慨した杏子は、患者をVIP待遇する病院に転院した。

女子会マウンティングにもめげずに治療に励むがなかなか成果は出ず、藤木の元に舞い戻った杏子だが...?


「あれ?杏子さん、また歯医者ですか?」

背後から声をかけられ、コソコソとオフィスを脱出しようとしていた杏子はビクっと肩を震わせた。

「...そ、そうなの。虫歯がひどくて...」

振り向くと、奈美が立っていた。ボーイッシュなベリーショートに、少し幼さの残るクールな顔立ち。彼女はまだ27歳の若手だが、頼りになる数少ない女の後輩だ。

「杏子さん最近元気ないし、お休みも多いですよね?虫歯でそんなに具合悪くなることもあるんですね...」

「し、心配かけてゴメンね!なるべく、すぐ戻るから!」

実は杏子は、人生で虫歯になどなったことがない。ボロが出ないようにそそくさと奈美に背を向けるが、彼女はさらに続ける。

「はやく良くなって下さいね。うちのチームは、やっぱり杏子さんに頑張ってもらわないと!杏子さんは、私たちジュニアの憧れの存在ですから!」

「あ、ありがとう...」

そう答えながら、杏子の胸はチクリと痛んだ。

不妊治療を続ける限りはこうして会社を抜け出すだろうし、運よく妊娠できても、その後も今までのようにバリバリ働ける保証はない。

奈美だけでなく、恐らく社内の誰もが最近の杏子を不審に思っているのも明らかだった。

このまま会社に隠しながら治療を続けるのも、そろそろ限界に思えた。

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