アモーレの反乱 Vol.16

アモーレの反乱 最終回:別れた夫へ最後の連絡。あえてLINEを使わなかった、妻の決意

港区在住。遊びつくした男が、40歳で結婚を決意。

妻には15歳年下で、世間知らずな箱入り娘を選んだ。なにも知らない彼女を「一流の女性」に育てたい。そんな願望もあった。

誰もが羨むリッチで幸せな結婚生活を送り、夫婦関係もうまくいっていたはず…だったのに。

これは港区で実際に起こった、「立場逆転離婚」の物語。

妻・利奈(りな)に突然離婚を切り出された夫・昌宏(まさひろ)。2人は別居を経て離婚する。それでもやりなおしたい、と夫が送ったLINEも、既読にならぬまま妻の携帯は夫の元へ戻ってきてしまう。そして、夫は最後の決意を固め、ある場所へ電話をかけた。

一方、離婚届を提出した後の利奈は…?


「これで手続きは終了です。お疲れ様でした。」

料金の支払いに訪れた弁護士事務所で、担当してくれた弁護士の坂井さんからの言葉に、私は思わず笑ってしまった。

どうかしたんですか?と聞かれ、笑ったことを謝りつつ、答える。

区役所でもお疲れ様でした、って言われたなあって。皆さん多分、他にかけられる言葉が無いんだなと思うと、気を遣って頂いて申し訳ないなって気持ちになっちゃって…。」

私がそう言うと、机を片付けようとしていた坂井さんの手が止まった。

「どうかしました?」

今度は私が尋ねると、穏やかに笑いながらも熱のこもった声で、彼は言った。

「どんな事情であれ、一度はずっと共に生きようと決めた人と法的に別れる、離婚する、ということは、結婚した時よりもずっと多くのエネルギーを消耗します。実際そのやりとりに疲れて、離婚を諦める方もいらっしゃるくらいです。」

私が頷いたのを確認すると、さらに続ける。

「だから僕ら弁護士は…少なくとも僕は、離婚を選んで、新しい人生を始める権利を必死で勝ち取った人に、尊敬とエールの意味を込めてお疲れ様でした、という言葉を選んでいます。だから…お疲れ様でした、松坂利奈さん。」

旧姓で名前を呼ばれることに慣れずに、私はまた少し笑った。この選択が正しかったのか、そうでないのかは分からないけれど、今は坂井弁護士の「お疲れ様」だけで、救われ、その言葉が心に沁みる。

「色々、本当にありがとうございました」

私がそう言って頭を下げると、“とは言っても今回僕は、大したことしてませんけどね”と坂井さんが笑って、しんみりしかけた雰囲気を壊してくれた。

―この人に頼めて良かったな。

そう思いながら、私はもう一度お辞儀をして立ち上あがる。掛けていたコートを取ろうと歩きだした時、私の背中に坂井さんが声をかけた。

「実は、ご主人…元ご主人から預かっているものがあるんです。」

きっと驚いた顔で振りかえった私に、坂井さんはいたずらを仕掛ける子どものような顔で笑うと、こう続けた。

「受け取るか捨てるかは、利奈さんの意志を尊重して欲しいと言われたのですが。今の利奈さんなら、受け取られてもいいんじゃないかなと僕は思います。」

言い終えると坂井さんは、引出しから何かを取り出すと、立ちつくす私に近づいてきた。

カツン。

革靴の音が止まり、私が強引に握らされたもの、それは封筒だった。

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