港区在住。遊びつくした男が、40歳で結婚を決意。
妻には、15歳年下で、世間知らずな箱入り娘を選んだ。なにも知らない彼女を「一流の女性」に育てたい。そんな願望もあった。
誰もが羨むリッチで幸せな結婚生活を送り、夫婦関係もうまくいっていたはず…だったのに。
世間を知り尽くして結婚した男と、世間を知らずに結婚してしまった女。
これは港区で実際に起こった、「立場逆転離婚」の物語。
僕は39歳。彼女の利奈(りな)は24歳だった、最初のデート。
2軒目にエスコートしたバーのカウンターで、「夜の街をあまり知らないんです」とはにかみ、うつむいた彼女の横顔を美しいと思った。
「タクシーを道端で捕まえちゃいけないんですね、銀座って」
ほろ酔いで驚きながら、ケタケタと笑う彼女の手を初めて握ったのは3度目に会った夜。新橋駅近くのタクシー乗り場まで手をつないで歩いた。
クールな美貌とは裏腹に、無邪気にはしゃぐ世間知らずな彼女が愛おしくなり、僕が導き守ってあげたい、とときめいた。
友人たちが次々と結婚していき、そろそろ自分もかな…と思っていた頃に出会ったことを「運命」という言葉に置き換えて、僕の40歳の誕生日の直前に、ハリー・ウィンストンでシンプルなダイヤの指輪を選び、プロポーズした。
あれから、5年。彼女は、僕の妻になり、そして今、2人で西麻布のレストランで向い合せに座っている。
カジュアルな装いなのに、星を獲った話題のフレンチレストランで、グラスワインの品ぞろえが都内有数、と評判のこの店は夫婦のお気に入り。
カウンターの左奥、見事なワインセラーを眺められる席が僕らの指定席だが、今夜は奥の個室だ。
予約の電話を入れたとき、個室を、と告げると
「今日は、何か特別な日ですか? それなら、最初のシャンパーニュは店からプレゼントさせてください。ビオでグランクリュのものが入ったんですよ」
という店長の気遣いに「ありがとう」と答えたのは、数時間前。
確かに、今夜は特別な、忘れられない夜になることは間違いなかった。
たった今、妻に「離婚」を切り出されたのだから。
この記事へのコメント