悪妻 Vol.7

悪妻:「妻の気持ちがわからない」。愛し方を間違えた夫が、初めて結婚を後悔した夜

東京には、いろいろな妻達がいる。

良き妻であり、賢い母でもある良妻賢母。

夫に愛される術を心得た、愛され妻。

そして、あまり公には語られることのない、悪妻ー。

これは、期せずして「悪妻」を娶ってしまった男の物語である。

女性の美に並々ならぬ執着を持つ藤田は、若く美しい妻・絵里子結婚する。一筋縄ではいかない日々奔放すぎる絵里子。だが、そんな妻についに藤田も我慢できなくなり、同僚女性と飲みに行くことにしてしまう。


妻の心。


麻布通り沿いに一人取り残された絵里子は、一旦脱いだコートをまたしっかりと羽織り直した。12月の外気は、絵里子の体を芯から凍えさせる。

「一体どういうつもりなの…!」

いつもの藤田ならば、絶対に絵里子を「お前」などと呼んだりしない。

強引にスマホを奪われ、勝手に着信拒否をされたことにも腹が立っていた。

だがー。

怒りに支配されていた心が、次第に不安と悲しみに占拠されていく。

あんなに自分に優しく尽くしてくれた藤田が豹変したことで、絵里子は少なからず動揺していた。

そもそも自分は、梅原と何もやましいことなどしていない。

仲間内で飲んでいるという場所に呼ばれただけなのだから、自分はそこまで悪くない、とも思う。

それなのにああも激しい怒りを見せた藤田に対する憤りと、もし本格的に見捨てられたらどうすれば良いのかという戸惑いで、その場から動けなかった。

父や兄とは違い、何を言っても受け入れてくれた藤田。

どんなに気のむくままに振る舞っても優しく接し続けてくれた藤田を、とうとう怒らせてしまったのは自覚していた。

自分から喧嘩を仕掛けて相手を無視したことはあっても、相手から拒否されることには慣れていない絵里子は、そうした場合にどういう態度をとったら良いのかが全くわからない。

相手が折れてくれるケースにばかり慣れていたため、そうではない状況では、なす術がないのだ。

梅原たちと飲んで騒ぐ気にもならず、絵里子は藤田が帰宅していることを期待し、タクシーを止めて自宅の住所を告げた。

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