東京には、いろいろな妻達がいる。
良き妻であり、賢い母でもある良妻賢母。
夫に愛される術を心得た、愛され妻。
そして、あまり公には語られることのない、悪妻ー。
これは、期せずして「悪妻」を娶ってしまった男の物語である。
世の中の男は、間違っているんだよ
世の中の男は、大変な勘違いをしている。
妻というのは従順で、貞淑で、倹約家なものだと。
だが藤田直樹は、今自分の横にいる妻・絵里子を眺めながらその考えに異を唱えたいと思っていたー。
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藤田直樹は、極めて平凡なサラリーマンだった。
もっとも平凡というのはあくまで藤田の自称であって、周囲の人間は彼の忍耐強さと実直な仕事ぶりを高く評価していた。人によっては、彼を成功した企業人と呼ぶかもしれない。
大手町に本社を構える大手通信企業で順当に昇級し、今年で39歳になる。実家はなかなかの資産家で、既に祖父から譲り受けた不動産もいくつか所有していた。
藤田は、ほとんどの事柄にこだわりを持たない。
自宅のインテリアも、ただ目障りでなければ良いという考えだ。着るものにも無頓着で、不潔でなければ構わない。
だが、ただ2つ。
そんな藤田が特別なこだわりを見せるものがある。
一つは「食」だ。食べたものを写真に収め、SNSなどに記録したりするわけではないが、食には並々ならぬ関心を持っている。
ある程度は店のランクを気にするが、値段が高ければ良い、というわけではない。彼なりの指針を持ってして、東京中の店を開拓することを趣味としている。
そして、もう一つ。
このもう一つのこだわりが、この男の人生を狂わせてしまったと言っても過言ではなかった。
この記事へのコメント
そうやって結婚した人の20年後知りたい
NTTは、給与が地方公務員レベルだから実家の資産ありきでないとまともに子供の教育もできないレベル。そういう意味でこの主人公は恵まれてるわねー。