2017.05.20
SPECIAL TALK Vol.32一人で勝てなければ、チームで勝てばいい
金丸:公立の小学校から筑波大学附属駒場中学校・高等学校を経て、東京大学理学部に進学されます。やはり、最初からコンピュータ・サイエンスの道に進もうと決めていたのですか?
西川:もちろんです。コンピュータの勉強がしたくて、情報科学科を選びました。
金丸:そんなふうに、小4のときから興味を失わずに好きでいられた理由は、何だと思いますか?
西川:プログラムを書けば何でもできるのが楽しかったんですよね。こんなに何でもできるのに、どうしてみんなやらないんだろうって、逆に不思議に思っていました。だからスポーツでは負けても、コンピュータだったら負けない、絶対に負けたくない、という気持ちがありました。
金丸:お話を伺っていると、得意じゃないとわかったら、きっぱり断念しています。それを繰り返すことで、自分のやりたいことがコンピュータに絞られていった。
西川:確かにそうですね。
金丸:ある意味、不得意なことがはっきりしている人は、得をしていると思います。何でも得意な人は、だいたい成功しません。できることがたくさんあっても、何かを極めるには、必ずひとつに絞らないといけませんから。
西川:ただ、高校ぐらいになってくると、それまでは一人で何でもできると思っていたコンピュータにも、自分の勝てる領域があれば、勝てない領域もあることがわかってきました。水泳はほかの人に勝てなくてやめましたが、コンピュータは諦めたくない。じゃあどうしたらいいかと考えて、勝てないなら仲間になってもらえばいいんじゃないかと。要はチームとして勝てばいいじゃないかと考えを変えたんです。
金丸:何においても、チームワークは大事ですから。
西川:そうですよね。大学のとき、ICPCという毎年3万人ほどが参加する国際的な大学対抗プログラミングコンテストに、東大チームのメンバーとして1年のときから出場していて。アジア地区を勝ち抜くのも難しい大会なんですけど、4年生のときに初めて世界大会に進出し、19位に食い込んだんです。
金丸:それはすごい。
西川:仲間と一緒なら、プログラミングで世界と戦っていけるんだと自信をもちましたね。
金丸:では、その経験が起業につながったと?
西川:そうですね。あともうひとつ、大学時代にバイオベンチャーで3ヵ月間ほどバイトをしたことがあって、こんなふうに自分たちがやりたいことを自由にやる道があると知ったのも大きかったですね。それで、大学院1年の終わりの2006年3月に起業しました。
金丸:それが、プリファードインフラストラクチャー(PFI)ですね。大学院1年生ということは、22歳ですか?
西川:はい。同級生には優秀な仲間がたくさんいるし、卒業までに1年間あったので「ためしに会社を作ってみよう」という軽い気持ちでした。1年間で成果が出なければ、会社をたためばいいや、というぐらいの。いま思うと、深い考えは本当になかったです(笑)。
先端技術への近道は起業すること
金丸:軽い気持ちで起業したということですが、それが正解のように思いますよ。
西川:どういうことですか?
金丸:深く考えたら、起業なんてできませんよ。学生であれば、家族を養わなければいけないというプレッシャーもない。その分、リスクを取ることができます。
西川:確かに。もし学生のときに起業していなかったとして、いま起業できるかといわれたら、ハードルは確実に上がっていますね。
金丸:だから失うものがないうちに、どんどん起業すればいいんです。とくに理系の人は、大企業に就職するより起業したほうが、絶対にリスクが少ない。徒弟制度のように、長い下積み生活が要求される大企業では、先端技術分野の研究はなかなかやらせてもらえません。
西川:起業すれば、そんなステップはすっ飛ばして、いきなり自分のやりたい技術を研究できますからね。
金丸:そうなんですよ。最先端の技術を身につけておけば、たとえ会社がダメになったとしても、別の会社に移ることができます。でも大企業だと、それが難しい。だから私は、若い理系の人に起業をすすめているんです。東大の同期で、西川さんのように起業した人は、他にはいないんですか?
西川:私の周りにはいませんね。
金丸:じゃあ、同じ情報科学科の人たちは、どこに就職したのですか?
西川:当時はグーグルが多かったです。
金丸:それは日本法人の? それともアメリカの本社?
西川:日本法人です。アメリカの本社はほとんどいません。
金丸:そうなんですね。いわゆる外資系の、本社と日本支社の役割の違いは、学生にはあまりわかりませんからね。私は技術者というのは、本来個人で勝負するというか、自分をもっと主張すべきだと思うんです。でも企業に入って〝歯車〞の一部になってしまうと、同じ規格に統一されてしまうわけじゃないですか。
西川:私は〝歯車〞にはなりたくなかったです。
金丸:私もそうですよ。
西川:だからそういう人にとって、会社を作るっていうのは、すごく良い選択肢だと思います。もちろん難しいこと、苦しいこともいっぱいありますけど。
金丸:でも、それを乗り越えたときの喜びや達成感は、すべて自分のものですからね。
西川:大きい会社だと、徒弟制度のような理不尽なことって、いっぱいあると思います。自分の能力で直球で勝負したいんだったら、起業しか選択肢がないのかもしれません。
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