～ディープラーニングでGoogleに勝つ。起業の醍醐味は、小さな組織が大きな組織に勝つこと～

6人で始めたベンチャーがグーグルをライバルとする理由

金丸：ところでPFIについて、もう少し教えてください。起業したときのメンバーは何人ですか？

西川：6名です。同級生の共同創業者が、ずっと検索アルゴリズムの研究をしていて、とりあえずそれを実用化しようというところからスタートしました。速くて高性能な検索エンジンを作ろうと。

金丸：最初からうまくいったのでしょうか？

西川：まったく。そもそも稼ぎ方がよくわかりませんでした。みんな技術者なので、請求書のような経理のプロセスもよくわかっていなくて。仕方なく、私がひとりで経理の処理をやっていました。

金丸：ベンチャーキャピタルなどから出資を受けようとはしなかったんですか？

西川：しませんでした。出資してもらうと、自分たちで会社をコントロールすることが難しくなるのではないかと考えていたんです。というのも、先ほどのバイト先のバイオベンチャーが、出資者の意見に左右されて崩壊していく様子を見てしまったので……。

金丸：それじゃあ資金繰りが大変だったでしょう。

西川：資本金30万円と、お金をかけずにスタートしたんですが、メンバーが大学院を卒業するまでの間に仕事が決まらなかったら、会社を解散するしかないね、という話はしていましたね。経理もそうですが、営業も誰もしたことがなかったんで、私が飛び込み営業をかけて、ようやく起業した年の12月に仕事を受注しました。携帯電話向けの検索エンジンで、グーグルとは違う色を出したいという企業に採用していただいたんです。

金丸：それは嬉しかったでしょう。

西川：すごく嬉しかったですね。とりあえず会社を存続できることになったので。

金丸：2014年には、プリファードネットワークス（PFN）という別の会社も立ち上げています。その目的は何ですか？

西川：PFNはAIを使って、産業用ロボットや自動車を賢くしたいというのがミッションなのですが、単に機械を賢くして終わりではなく、その先に、機械同士でネットワークを形成することを見据えています。人間の場合も、個人個人の能力をうまく組み合わせると、より高度なことができるようになりますよね。それを機械で実現させたいんです。機械は情報をリアルタイムでやりとりできますから、協調し合うことで、より複雑なタスクを迅速にこなせるようになるはずです。

金丸：なるほど。PFNはNTTやファナック、トヨタといった超大手企業から資金調達をされていますね。

西川：はい。PFIでは自分たちが自由に研究開発することを優先していていましたが、PFNが挑戦している領域は、世界的に熾烈な競争が繰り広げられている分野です。

金丸：機械が自ら学習するディープラーニングという領域ですね。

西川：グーグルもディープラーニングを研究する企業を買収していますから、ライバルのひとつといえます。巨大企業を相手に戦うためにも、PFIと切り分けたPFNを立ち上げ、外部からの出資を受けて事業を加速させることにしました。

金丸：実際、十分な資金があると違いますか？

西川：違いますね。パートナーの会社さんには、非常に良くしてもらっていると感じています。起業してしばらくの間は、次の1年をどう乗り切ろうかということばかり考えていましたが、その状況を脱しました。いまは、5年後にどういう技術を実現させるのか、という将来にフォーカスした研究開発ができるようになりました。

金丸：それは大きいですね。ディープラーニングにおいて、コンピュータの計算速度は非常に重要です。速いコンピュータを作れば、世界を席巻できる。

西川：そうなんですよ。だから、ものすごいチャンスがあるんです。速く処理できるコンピュータを作ったら、世界で一番優れたAIを作ることができる。もともと私はコンピュータを速くしたいとずっと思っていて、大学でもハードウェアの研究室で、マイクロプロセッサ（基本的な演算処理を行う、コンピュータの心臓部）を研究していました。

金丸：そうなんですね。

西川：実は起業した理由のひとつに、〝自分たちでマイクロプロセッサを作りたい〞というのがありまして。

金丸：それはお金かかりますね。ソフトウェアの開発とは訳が違いますから。

西川：だから、資金を調達するのに一番いい手段は何かなと考えて、たどり着いた結論が「会社を作ること」だったんです。10年以上かかりましたが、今年やっと夢が実現しました。マイクロプロセッサの開発に取り掛かることができたんです。

金丸：それは良かった。起業当初の目的を達成しつつあるんですね。

西川：まだまだこれからですが、どうやってグーグルと勝負していくのかを本気で考えていかないといけません。この勝負には、絶対に勝ちたいです。