SPECIAL TALK Vol.26

~自然と調和する文化で育った日本人こそ、世界の食料危機を救える~

東京大学に入学環境問題を憂い、農業の世界へ

金丸:楽しい高校生活のあとは、東京大学農学部に進学されます。そのまま慶應義塾大学に入れるのに、なぜ東大を受けたのですか?

加藤:私、すごく幼稚なところがありまして、たまたまテレビで見た『ドラえもん』が環境問題に関するストーリーをやっていて、「このまま環境汚染が進んだら、地球から酸素がなくなってしまう」と本気で思ったんです。環境破壊のせいで植物が生えなくなり、やがて人間が地球で暮らせなくなると。それで、環境問題を解決できる研究者になろうと思いました。

金丸:突飛な考えですね……。

加藤:今思えばそうですけど、当時はいずれ食糧難がくるのが怖くて、自分にできることから始めようと真剣でしたね。それで慶應には生物系の学部が医学部しかなかったので、東大を目指したんです。

金丸:じゃあ大学では、迷わず環境問題や食料問題を専攻されたのですか?

加藤:もちろんです。ですが環境というテーマは大きすぎるし、私自身は数学が得意だったので、環境全般から食料生産を向上させる農業機械の勉強にシフトしていきました。

金丸:農業機械というのは?

加藤:農業ロボットです。植物工場のような〝農業の自動化〞にすごく興味があって、大学では、雑草だけを探し出して焼き切るロボットアームの研究をしていました。卒業後、イギリスのクランフィールド大学に留学したんですけど、そこである先生から「NASAのプロジェクトに参画しないか」とお誘いいただきました。

金丸:それはすごい。どんなプロジェクトだったのですか?

加藤:宇宙ステーションに搭載する植物工場のプロジェクトです。研究拠点がアメリカの3つの大学に割り振られていて、私はニュージャージー州立大学に配属されました。当然のことなんですが、宇宙には重力がないので、植物の根っこは下に生えません。プロジェクトの研究も、そこからのスタートでした。

金丸:根が下に生えない問題を、どう解決されたのですか?

加藤:それが解決できないんですよ、重力がありませんから。では、どうすればいいかということで、私が担当したのは、宇宙ステーションで途切れることなく食料を生産するプロセスをJAVAで組むというものでした。宇宙での植物生産システムを構築するために、数千キロ離れた大学のチームが電話会議やITツールを駆使して、クラウド上でプログラミングを行い、共同で研究を進めていました。今のようにインターネットやウェブ会議システムが発達していない時代ですから、こういう最先端の環境で仕事ができたのは大きかったですね。

金丸:とても貴重な経験ですよね。

加藤:でもお世話になっていた教授がオハイオへ異動になり、さすがに「オハイオまではついていけないな」と、参画から半年で日本に戻ることにしました。

結婚を機に静岡へ。エンジニアとして結果を残す

金丸:帰国後は、どうされたのですか?

加藤:2000年に戻ってきてすぐキヤノンに就職したのですが、結婚を機に退職し、主人の実家がある静岡に引っ越しました。主人の親族が産業用機械メーカーを経営していて、私もそこの社員になりました。

金丸:具体的には何をされていたのですか?

加藤:研究開発のリーダーです。歯車などを使って回転速度を落とす減速機を製造していて、その部品のひとつである三次元形状のカム(機械の運動方向を変える機械要素)を開発していました。この世界って、まさに数学の塊なんですね。数値解析や制御のための新しいアルゴリズムを作り、世界一の精度を誇るカムを開発しました。

金丸:世界一ですか! どこでも結果を残されているのが、加藤社長のすごいところです。

加藤:いえ、そんなことないです。ただ、仕事にはやりがいを感じていたんですけど、子どもが小さかったこともあり、いったん会社を離れたんですね。それで自分はいったい何がしたいんだろうって立ち止まって考えたとき、「やっぱり農業がしたい」と改めて思いまして。

金丸:そこから一気に起業へ舵を切ったんですね。

加藤:そうです。ちょうど地元の大学で、農業を始めたい人向けの社会人講座があり、半年間通いました。そしたら農業の世界というのは、独自の商習慣がまかり通っていて、契約書さえない。これは変えがいがあるなと思いましたね。それで2009年に起業し、本格的に農業に足を踏み入れました。

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