SPECIAL TALK Vol.26

~自然と調和する文化で育った日本人こそ、世界の食料危機を救える~

よそ者だからこそできること。農業×ITで世の中を変える

金丸:とはいえ、農業の仕事の経験はないわけですから、最初は苦労されたのではないですか?

加藤:最初は農機具の貸し借りを行うマッチングサイトを運営していたのですが、なかなか軌道に乗らずに苦しかったですね。でも2010年に、静岡県の農業情報サイトを運営する仕事を受注したのが、転機になりました。

金丸:今、社員は何名いらっしゃるのですか?

加藤:6名です。

金丸:地方都市で社員6名という規模にもかかわらず、その事業のインパクトは非常に大きい。本当に驚かされます。

加藤:それだけ農業がITとかけ離れていた、ということなんでしょうね。当社ではベジプロバイダー事業のほかに、「フィールドサーバー」という計測機器を提供しています。カメラや様々なセンサーを搭載していて、畑の状況を24時間モニターで確認することができますし、センサーで温度や湿度、日射などのデータをリアルタイムに計測し、たとえば湿度が低い日が続くと、「そろそろ水やりが必要」と生産者のパソコンやスマートフォンにアラームで知らせます。日照時間や水やりのタイミングなど、これまで勘にたよっていたものを「見える化」する秘密兵器だと考えているのですが、このほかにもエンジニアとして農業分野でできることは、まだまだたくさんありますね。

金丸:外の世界から入ってきた加藤社長から見て、農業の問題点は、どこにあると思いますか?

加藤:やはり法律によって規制されている部分が多いことですね。それに新規参入者に対して、まだ排他的な部分が残っていると思います。

金丸:では農業に改革を起こすには、何をすればよいと?

加藤:ひとつは世代交代です。農業の後継者不足は深刻な問題です。このまま高齢化が進めば、日本の農業は衰退してしまう。農業をやりたいという若い人たちが参入しやすい環境を整えなければなりません。

金丸:私もそう思います。若い人が好んで入ってくるような産業にしないといけないのに、そもそも農地さえ貸してくれない。

加藤:そうですよね。でも完全にシャットアウトというわけではなく、その地域である程度成功したり、名が知れてきたりすると、徐々に人が集まってきます。実際に私の場合もそうでした。

金丸:それに法律の問題も根深いですね。

加藤:農業をやればやるほど、矛盾が多いことに気づかされます。農産物を「生産」「加工」「販売」するという6次産業化を国は進めようとしていますが、それこそ矛盾だらけです。たとえば地元で採れた野菜を使ったレストランを開こうとしても、駐車場のひとつも作れません。法律で農地にコンクリートを打ってはならないと定めているからです。だから、みんなで粗い砂利を敷いて、駐車場に見立てたりしている。本当に改革を進めたいのなら、法改正は避けては通れません。

金丸:これだけ時代が変化しているのに、農業の世界は頑ですからね。農業ワーキンググループの座長として、改善を推進していきます。

加藤:それは頼もしい。応援しています。

金丸:農業は国を支える大事な産業のひとつです。たとえばデンマークでは、親の農地を子どもが継ぐことはできません。継ぎたいのであれば、大学で農業と経営に関する学位を取得し、農地を親から買い取らなくてはなりません。それだけ本気で農業と向き合っているのです。

加藤:農地は国民のものなんですね。日本の場合、私物化し資産化している現状があります。

金丸:この数年で農業改革を必ず進めます。加藤社長には引き続きご尽力いただきたいと思います。

加藤:もちろんです。同じような問題意識をもつ農家の方も多くいらして、なかには自分が保有する農地を、農業をやりたいという若者に貸し出している方もいます。でも、個々の動きにはやはり限界があります。それを仕組み化して、大きな流れにしていきたいですね。

エネルギーや食料問題など関心は広く大きく

金丸:これから力を入れていきたい事業はありますか?

加藤:そうですね、関連会社が昨年始めた「羽田市場」というオンライン・マーケットを広げていきたいです。簡単に言うと、羽田空港内に市場を作ったんですよ。

金丸:築地みたいな?

加藤:はい。羽田の倉庫街の一角に、「羽田鮮魚センター」という魚をさばける場所を作りまして、そこで毎朝全国から空輸される魚を仕分けして加工し、首都圏の飲食店やスーパーに届けています。

金丸:それはすごいですね。時間も中間マージンもすべてが省ける素晴らしい仕組みです。

加藤:ほんとに鮮度は抜群ですよ。お店には土日祝日に関係なく、毎日とれたての魚が届きますし、漁師のみなさんの収入アップにもつながっています。

金丸:確かに築地に持っていけばブランドは付きますが、全国各地から魚が殺到するため、実入りが少なくなってしまう。これも既成概念を取り払った先にあるサービスですね。非常に革新的です。ちなみに、学生の頃憂えていた食料問題についてはいかがですか?

加藤:その心配はだいぶ解消されました(笑)。ただ、食糧難が世界的な課題であることに変わりはありません。近い将来アジア諸国が、その次にアフリカが食料問題に直面するでしょう。それを救うのは、日本人の役割だと思っています。自然を支配するという発想が根底にある欧米人に、食糧難は救えません。自然と調和し、自然に寄り添って生活してきた日本人こそ、世界の食料危機を救えると、私は信じています。

金丸:それが、世界における日本人の優位性なのかもしれません。

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