2016.05.22
産まない女 Vol.1その人の子供は産みたいとは思わなかった
和香には一度だけ、結婚してもいいと思える相手がいたという。同じ会社の人で、先輩としても尊敬できる人。好きだと思ったときはその人との家庭も想像した。ただしそこには子供の姿はなく、二人だけの世界。そういった形はいくらでもあるし、結婚したいと思えただけでもすごい進歩だ、と思った。しかしその人から出たのは「子供は欲しいんだよね」という言葉。
その瞬間に自分ではこの人を幸せにできないと考え、身を引いた。そのあと彼は結婚し、今ではお父さん。結婚したと聞いたときは流石にショックだったが、彼の幸せそうな生活を聞いていると心から祝福できる。
それ以降、6年経ったいまでも当時の彼ほど結婚したいとは思えず、シングルを謳歌しているそうだ。結婚したくない和香にとって、彼氏という存在もあまり必要ではない。そのため、恋愛に関してはフリースタイルでいることが多く、相手も自分と同じように結婚する気がない人ばかりだという。
お互い50歳を過ぎてもシングルだったらルームシェアでもしようか、と冗談で言える関係が和香にとっては心地が良い。なかには結婚しないということを真っ向から否定され、子供が産めない人に対しても失礼だと言われたこともある。それは和香も十分理解していた。できるものなら変わってあげたい。
しかし、産まないということが悪いという風習は理解ができない。少子化という問題は重く考えているが、自分は別の方法でそこをカバーできればと思っている。例えば、独身で一定の金額を稼いでいる人は、税金を多くとってもらい対策に当ててもらう。和香は一般的な女性に比べて稼ぎがあるため、そういった支払いを求められれば払うつもりと考えている。
30歳を過ぎたら母にはカミングアウトをする
そして和香には決断していることがある。それは母親に子供を産まないという選択をしたことを話すことだった。
「母にはいつ孫を見せてくれるの?って会うたび言われます。それが今は申し訳ないですね。30過ぎてもこの気持が変わらないなら、母にはちゃんと話そうと思っています」
泣かれて親不孝と言われるかもしれないが、今の自分には誇りをもっている。できることなら悲しませたくないが、母親に似て頑固な和香は一時の感情だけでは変わらない。いつか大きなプロジェクトを成功させ、娘であることに誇りをもってもらうことが親孝行。最終的には独身貴族になりたいんです、と話す和香の表情は明るかった。
◆
女性がひとりで生きていくというのは大変なことだ。和香は決して甘く考えているわけではなく、自分の発言の重さも重々承知している。子供を産まないリスクも背負い、生きていこうとする彼女を否定はできない。決してひとりでいることを不幸だとは決めつられない。産まないことを選択した女性も幸せになれるという価値観が根付きつつある。
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