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  • 丸の内恋物語:ふたりをつなぎ止めたのは一夜のペアリングディナー

    この物語の主人公は賢人、33歳。都内の大学を卒業した後、丸の内の総合商社に入社。花形といわれるエネルギー部門に配属されて今日に至る。

    その賢人には付き合って3年になる彼女がいる。恭子、29歳。丸の内仲通りに面したインテリアショップに勤めるおっとり系美人だ。

    そんな二人が出逢ったのは、丸の内で開かれたランチ合コン。互いに趣味が食べ歩きだったこともあり、すぐさま意気投合。自然な流れで付き合うことになった。

    そして月日は流れた。時というものは残酷なもの、賢人と恭子にも3年目のジンクス、つまり倦怠期が訪れていた……。

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    時計の針は18時50分を指していた。

    オフィスの窓からふと外を見やると、隣のビルの会議室が目に入った。ぞろぞろとスーツ姿の男たちが集まってくる。これから打ち合わせが始まるのだろう。コンプライアンスが声高に叫ばれるご時世とはいえ、丸の内では今日も変わらず、あちこちでサービス残業が行われるにちがいない。

    「やれやれ」

    僕は胸の内で呟きながら帰り支度を始めた。

    「明日は大雪でも降るのかね。勘弁してくれよ~」

    同僚の冷やかし半分のヤジが入る。無理もない。僕がこんな早い時間に会社を出るなんて異例のことだ。

    商社でエネルギー部門といえば花形だ。電力自由化のおかげで、この数年間は特に馬車馬のように働いてきた。海外出張も何度したことだろう。仕事は好きだが、ワーカホリックにはならない。そう思ってやってきたが、今の僕は、すっかりその典型になっている。

    ビルの外に出て、さっきまでいたフロアを見上げた。オフィスから漏れる光は、当たり前のように煌々と照っていた。

    「お疲れさま」

    不意に後ろから肩を叩かれた。恭子だった。

    「今夜の目的地は目と鼻の先でしょ。向かっている途中に賢人に行き会うかしらと思っていたら、勘が当たったわ」

    そう言って、彼女は僕と肩を並べて歩き始めた。

    「今夜の目的地」とは、東京駅の駅舎内にある『東京ステーションホテル』のことだ。今日は付き合い始めてちょうど3年目。いわゆる記念日というやつ。そのお祝いを、ホテルの中にあるメインレストラン『ブラン ルージュ』でやろうというわけだ。

    いつも、平日のデートではあえて丸の内は避けている。丸の内はあくまでもビジネス街、会食ならまだしも、彼女とのデートは六本木とか恵比寿でなくては!という自分なりの美学がある。

    ただ、「残業で約束の時間に遅れる」→「恭子の機嫌が悪くなる」→「仕事だからしょうがないだろ!と逆ギレ」→「なんだか空気が悪くなる」、そんなことがここのところよくあった。

    今日は記念日。遅れられない。ギリギリまで残業するとなると・・・、丸の内しかない。丸ビルのどこかにするか?いや、それはこの前のデートで行っている、ならばどこ?と調べるうちに、灯台下暗しとでもいうのか、東京駅に直結するホテルのレストランに行き着いた、というわけだ。

    レストランフロアのエレベーターを2階で降り右に進むと、クラシックな外観とは対照的にモダンな雰囲気の空間が現れた。床には独特の模様が描かれている。その昔、『ブラン ルージュ』は『ばら』という名前だったことを会社の役員から聞いたことがある。このデザインは、薔薇のつるをモチーフにしているのかもしれない。

    そんなことを考えながら歩くとレストランのエントランスに着いた。

    白を基調とした趣深いメインダイニング。窓のそばをグリーンの山手線をはじめ様々な電車が行き交っている。改めてこのレストランが東京駅舎内にあることを思い知らされる。これまでふたりで色々なレストランに行ってきたが、このロケーションは他では絶対に体験できないだろう。

    予約しておいたのは、平日10名限定で供されている“マリアージュプラン”。ワインと料理のペアリングをコース仕立てで楽しめるというものだ。正直、ワインをボトルで頼むと値段が気になるし、かといってグラスワインをいちいち頼むのも面倒。

    このコースはアミューズからデザートまで計7品、そこにワインがついてきて1万3800円(税込サ別)で収まるから、お財布にも魅力的だし、ワインを選ぶ必要がないのがいいかなと思って予約した。

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