「賢人と時間通りにディナーが始まるなんて珍しいね」
と皮肉を言う恭子。ただその言葉とは裏腹に満面の笑顔だったから、僕は胸をなでおろしていた。3年目の記念日ディナーという名目だったが、仕事にかまけて恭子の相手をできないでいた僕にとっては、罪滅ぼしの意味もあったから。美学に反してでも丸の内を選択したのは正解だった。
「一品ごとにソムリエがそのマリアージュの意図を説明してくれるって分かり易いね。分かってから食べると一層おいしく感じられちゃったりして(笑)」
と嬉々として喋る恭子を見ながら、ふと思った。ペアリングとは「相性」「合わせる」ということ。ふたつのものを掛け合わせるから、素敵な魅力になるってことを。1+1は2じゃなくて、それ以上。それを今の僕たちは出来ているのだろうか?
付き合うなら、自分と同じように出世欲が強いバリバリのキャリアウーマンがいいと思っていたが、むしろ真逆でおっとりとした性格の恭子と付き合ったのは、そもそも自分が持っていないものに惹かれたからじゃなかったか?そういうふたりがひとつになるから、人生は面白いんじゃなかったか?
今の僕は、自分のことしか考えていなかった。デートの時間も仕事のことばかりが気になり、恭子の気持ちに目も向けようとしていなかった。恭子のいいところをもっと見つめていけば、自分も成長するはずなのに・・・。
「ごめんな」
と急に言葉が口をついて出た。いつもは素直になれない僕なのに。ワインに少しだけ酔ったのかもしれない。
「こんな風に言うとキザに聞こえるかもしれないけど、俺にとって丸の内は闘う場所なんだよな。それがさ、今日、ここに来てみて、色々なことに気づいたよ。最近は、目の前のことに追われてばかりで、いろいろ気づけなかったんだよな」
来年で恭子は30歳になる。女性の美しい時期の3年は貴重だ。そろそろ、僕もケジメをつけなくちゃいけないのかな?とは思っていた。結婚。奇しくも今日のディナーは「マリアージュ」、フランス語で結婚の意味もある。センチメンタルとは無縁な僕も運命を感じざるを得なかった。
「あ、かわいい!」
と恭子が声をあげる。コースの〆に出されたコーヒーのソーサーには「Merci」の文字が。シェフやソムリエが客への感謝を示しているのだろうが、今日の僕には「彼女にMerciしなさいね」と言っているようにも感じられた。
食事を終えて外へ出ると、そこは見慣れたはずの東京駅だった。急に現実に引き戻されたが、悪くないギャップだった。丸の内という日常的な場所で味わう“非日常”とは、この上なく贅沢なことなのかもしれない。
改めて思う、僕の隣には恭子が必要。そろそろ、プロポーズの言葉を考えなくっちゃならないと思いながら改札口へ足を進めた。
3月31日(木)まで提供されるペアリングディナーコース「マリアージュ」を、「東京カレンダーWEBの記事を読んだ」と言って2月29日(月)までに電話予約した方には特典が!なんと、シェフパティシエ渾身のデザートがさらにもう一品プラスされます!スイーツ好きな女子のハートをこれで射止めてみては!
もっと『ブラン ルージュ』を知りたいなら・・・
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