2024.07.20
SPECIAL TALK Vol.118
日本とフランスの架け橋。新たな歌舞伎役者の誕生
金丸:旦那さんはいまもイベント企画のお仕事をされているのですか?
寺島:いまはもう独立して、日本で会社を立ち上げてやっています。片言の日本語しかしゃべれなかった人が、自分で事務所を作って、スタッフを集めているからたくましいですよ。私がフランスに放り込まれて事業をやるなんて、絶対に無理でしょうから。
金丸:そして、眞秀さんはといえば、幼い頃から歌舞伎の舞台に立たれていますよね。
寺島:初お目見えは、4歳の時でした。昨年の5月には初代尾上眞秀を名乗って、初舞台も。
金丸:その初舞台を記念して、シャネルが祝幕を制作しました。寺島さんがいたから歌舞伎がインターナショナルになったと思いますし、日本とフランスの血が流れている眞秀さんが、ふたつの国の文化を結びつける存在になっています。
寺島:特殊な立ち位置ですよね。歌舞伎役者の娘の子どもで、父親がフランス人というのは、長い歌舞伎の歴史でも例がないと思います。
金丸:これまでも多くの外国人観光客が歌舞伎座を訪れていましたが、歌舞伎は次のステージに進んだように感じています。冒頭でもお話ししたとおり、昨年の国際親善試合では、眞秀さんの口上を聞いて感動しました。ヨーロッパはハンドボールが盛んだし、「パリ・サン=ジェルマン」は人気チームなので、あの試合はヨーロッパでも放送されたんです。眞秀さんが日本語とフランス語の2ヶ国語で口上を述べたこともあって、すごい反響だったんですよ。
寺島:私のインスタグラムにも、眞秀の口上を上げましたが、反響がすごく良くて。
金丸:そりゃそうですよ。あれだけ堂々としていたら。
寺島:私がハンドボールでシュートを決めているシーンはそんなにでしたけど……。
金丸:おかしいですね(笑)。というか、インスタをやってらっしゃるんですね。ご自分で管理されているんですか?
寺島:そうですよ。最近始めたばかりでド素人ですが。
金丸:では、フォローさせていただきます。寺島さんみたいな女優さんは、事務所が管理するのかと思っていました。ところで、寺島さんはお料理もされるんですか?
寺島:します。といっても、やれる時だけですが。
金丸:眞秀さんが一番好きなお母さんの手料理は?
寺島:ホイル焼きが好きですね。いろんな魚と野菜をいっぱい入れて作るんですが、他にいろいろあるのに、何かというと眞秀が「ホイル焼き」としか言わないので、それしか作らない人みたいになっちゃっています(笑)。
金丸:大好物なんだからいいじゃないですか。ちなみに、お母さまもご自分でお料理を?
寺島:母はずっと作ってますよ。
金丸:お母さまや寺島さんは、スーパーマーケットにも行かれるんですか?
寺島:行きます、行きます。
金丸:自分で?
寺島:はい。金丸さんはうちの家族をなんだと思ってるんですか(笑)。
金丸:だって、歌舞伎の家の人たちがどんな暮らしをしているかなんて、分からないから(笑)。
寺島:うちの母は関西生まれだし、お好み焼きとかたこ焼き、焼きそばも好きですよ。
金丸:そうなんですか。好感度がさらに上がりました。コンビニにも行ったりするんですか?
寺島:行くに決まっているじゃないですか(笑)。私はコンビニのおでんが大好きだし、眞秀はコンビニで買うフラッペが好きです。
金丸:フランスから見ると、伝統的な日本の芸能にフランス人の血が入ったということで、すごく歓迎されています。当の本人たちがコンビニのおでんやフラッペが好きだなんて、なおさら親近感が湧きますね。
女優として母として妻として、新たな発見を続ける日々
寺島:眞秀はまだ子どもですが、フランスでもお芝居をしたいと、何かにつけて言っています。
金丸:お父さまがフランス人だから、ご本人としては自然とそう考えるようになったんでしょうね。ぜひ叶えていただきたいです。海外公演とはいえ、無理にローカライズしなくとも、日本語で演じて、そこにフランス語の字幕を出せばいいと思います。しかし、寺島さん自身も女優としての活動があって、旦那さんも自分で事業をされている。眞秀さんも歌舞伎役者として歩き始めたとなると、寺島家は大忙しですね。
寺島:綱渡り状態ですよ(笑)。眞秀は日によっては3つくらいお稽古が入ることもあります。学校の送り迎えだって、この日は自分が行って、この日はふたりとも無理だからシッターさんに頼んで、そのあとここからここまでの時間はこうしてって。3人の予定を書き込んでいる我が家のホワイトボードは、大変なことになってます。
金丸:フランスって、たしか小学校低学年まで、学校での送り迎えは親の義務でしたよね。
寺島:だから、小学1年生の時に眞秀をひとりで行かせようとしたら、ローランが「何やっちゃってんの!ダメじゃないか!」ってびっくりしてました。
金丸:フランスでは違法ですから。やっぱり、そういう価値観の違いってありますよね。
寺島:違いといえば、私は実家での経験から、朝しっかり食べないとダメな人間なんですけど、フランス人はコーヒー1杯で過ごそうとするじゃないですか。せいぜいパンをちょっと食べるくらい。許せないんですよね(笑)。
金丸:寺島家は朝から楽しそうで、いいですね(笑)。これからの眞秀さんの成長も楽しみです。
寺島:そうですね。あまりにも眞秀が堂々としていて、私の方がビビっちゃうことがあるくらいです。国際親善試合での口上の時も、ハンドボールの選手たちを前にはしゃいじゃって、ギリギリまで遊んでいたから心配で心配で(笑)。
金丸:あの時、私も眞秀さんにお会いしましたけど、「僕は覚えてるから大丈夫だよ」って。それも「1回で覚えるんだよ」って。
寺島:いつかくじかれるんじゃないかと思いますけどね。
金丸:でも最近、さまざまな分野で活躍している人たちを見ていると、「苦節何年」というよりも、大きな挫折を味わったことがないように見える人たちが増えたなと思います。スポーツ界だと大谷翔平選手がそうだし、経済界でも起業したあと、時代の波に乗ってスルスルっと成功した若手経営者が増えました。
寺島:映画界もそうかもしれません。「助監督を何年もやってから監督になりました」みたいな人が少なくなって、いきなり監督として成功しちゃう人がいる。
金丸:これまでにあった「成功するためにはプロセスを踏まなきゃダメ」という常識が変わってきているように感じます。でも、日本ではいまだに長年下積みをしてこそ、という考えが根強い。
寺島:それって、昭和な価値観ですよね。
金丸:特に大企業では「20代、30代はでっち奉公みたいなもの」という考えがいまだにある。「この子にやらせたい。挑戦してほしい」と思ったら、20代のうちに抜擢して引き上げるのが、本人にとっても企業にとってもいいはずなんですが。40代になってから「経験を積んだから、そろそろ挑戦させよう」なんて言っても遅いです。その点、スポーツや芸能の世界は実力勝負ですから、若くても実力があればトップになれます。
寺島:フランスだと政治の世界でも30代で首相に任命されているし、マクロンも最初に大統領になったのは39歳です。フランスは、若い人たちがすごく頼りにされているなと感じます。
金丸:素晴らしいですね。日本だったら、重鎮が「時期尚早だ」とストップをかけて終わりです。それだと、新しいものは生まれません。ところで、眞秀さんは舞台デビューをされてお忙しいと思いますが、ぜひハンドボールも続けていただきたいです。
寺島:フランスだとハンドボールは、国民的な人気スポーツですもんね。
金丸:日本の伝統芸能は、フランスをはじめ海外に受け入れられるポテンシャルが十分にあると思います。でもイマイチ広まりきれていないのは、すごくもったいないなと。
寺島:歌舞伎界の人たちも伝統を守りながら、どうやって変えていこうかと、悩みながら実践していらっしゃいます。
金丸:眞秀さんが歌舞伎とハンドボールの二刀流でフランスに受け入れられたら、私としては最高です。
寺島:やっぱり今日はハンドボールへの愛を熱く語る対談になりましたね(笑)。
金丸:ついつい(笑)。
寺島:眞秀を通じて、私はいままで以上に歌舞伎の世界に触れています。それによって、演技についても新たな発見がいろいろあって、自分自身の幅が広がっているのを感じます。私は「前人未踏」という言葉が好きなんですが、眞秀には負けていられません(笑)。
金丸:寺島さんだけでなく、旦那さんや眞秀さんのこれからのご活躍をとても楽しみにしています。今日は本当にありがとうございました。
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