2023.05.19
SPECIAL TALK Vol.104
“村社会”の絆で外科の地位を向上させたい
大木:だけど、ミッションにトキメキを感じた以上はやるしかない。頑張っている外科医を辞めさせないため、そして新しく入ってくる仲間を増やすために、何ができるかを考えて実行してきました。
金丸:大木さんは手術だけじゃなくて、チーム作りもうまそうですね。
大木:学生時代の部活を手本として、一体感を持つことで仲間意識を育てる活動をいろいろやっています。それが組織の求心力を高めることにつながるので。
金丸:具体的にはどんなことをされているのですか?
大木:たとえば、「月例・チェアマン夕食会」。毎月第1金曜日に新橋の居酒屋を借り切って、誰が来てもいい飲み会を始めました。先日まではコロナで一時中断していましたが、これまでに145回やってます。それから、ゴルフを国技ならぬ「局技」にしました(笑)。
金丸:あえて“昭和のモデル”を採用したと。
大木:おっしゃるとおり。飲み会、カラオケ、麻雀もいいけど、ゴルフには外科に通じる平常心の重要性、競技性があるし、老若男女分け隔てなくできるし、抜群の社交性がありますから。大木杯を含む大きな大会を年4回開催していますが、多いときは100名近い外科医が参加します。また、「ゴルフのススメ」としてその年の新入社員を連れて軽井沢で毎年合宿をしますが、これがまた悲惨で(笑)。
金丸:どんな惨劇が?
大木:何が悲惨かというと、新入社員のうち、ゴルフ経験者が1、2名しかいなんです。ヘッドにビニールをつけたまま打とうとしたり、パターを振り回しながらティーグラウンドに行ったり。
金丸:未経験なの丸出しじゃないですか(笑)。
大木:前夜は山荘でオールナイトの食事会・親睦会ですが、プライベートなこともガンガン聞いて若手との距離を縮めます。翌日は僕は3ホールごとに組を移動して参加者全員とプレーするように心がけています。
金丸:イギリスやベルギー、アメリカで長い時間を過ごした大木さんが、そういう昭和のやり方に活路を見出したのは、面白いですね。
大木:アメリカ時代に個人主義を嫌というほど見てきたのが、理由のひとつです。自分の成果になることだけをやる。組織への帰属意識はない。それはそれでひとつの社会のあり様だと思いますが、日本にはフィットしません。「自分が頑張れば会社が良くなり、会社が良くなれば社会が良くなる」。今の若者だって捨てたものではありません。多くの若者はこんな意識の職場で仕事がしたいと感じています。
金丸:なるほど。給料倍増も月250万の家賃も、大木さんの心を動かせないわけだ。
大木:実は、この5月までの1年間、日本外科学会の会頭を務めていました。そして4月26日から3日間にわたって参加外科医約1万6千人規模の年次学術集会を開催したのですが、そこでの僕の会頭講演のタイトルは「トキメキファインダーの足跡:より高く、より遥かへ」。
金丸:いかにも大木さんらしい。
大木:医者がトキメキを忘れてしまったら、日本の医療はとんでもないことになります。特に外科医はトキメキなしではやっていけない。もちろん、外科医の待遇を改善するための活動はこれからも続けるつもりですが、待遇改善は必要条件であって十分条件ではない。
金丸:今の世の中は減点方式じゃないですか。外科医は手術があるから、ミスがはっきり分かってしまう。
大木:そう。それも全国的には外科が若手に敬遠される理由でしょう。三振の数で評価する社会だと、打席に立たない人が一番強いんですよ。でも、そんな人だけを集めてチームを作っても、勝てるわけがない。
金丸:リスクを取らなきゃ、ピンチを乗り越えることも成長することもないですからね。
大木:医療界にこういう言い回しがあります。「病気を治すは下医なり。病人を治すは中医なり。国を治すは上医なり」。自分に当てはめると、まずアメリカで新しい手術を開発したことで、下医になれた。日本人を治したいと思って戻ってきて、中医になれた。最後は外科全体をよくしたいとか、国をもっとよくしたいとか、より大きい観点から貢献することで、上医になりたいと思っています。そのひとつがウィズコロナ施策とコロナ医療への財政支援を柱とした「新型コロナ大木提言」です。これを安倍晋三元総理に採用してもらい、予備費から差し当たって1兆3,000億円を獲得し、当時全国に50床しかなかったコロナベッドを劇的に増やすことで、国民の安心・安全に貢献し、病院の財政改善にも役立つことができました。しかし、大木はコロナを軽んじていると、炎上しました。
金丸:大木さんが医師という器に収まりきらないスケールの持ち主だということが、よく分かりました。
大木:僕は異端児ですから(笑)。
金丸:どんな業界でも、壁を破って新しい世界を切り拓いていくのは異端児です。これからも大木さんにご活躍いただき、日本の外科、ひいては日本全体をよくしていただきたいと思います。今日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。
【SPECIAL TALK】の記事一覧
2024.04.19
Vol.115
~この楽器だからこそできる表現を。歴史ある箏を武器に世界を目指す~
2024.03.21
Vol.114
~勝負の気持ちから感謝の気持ちに。青森の伝統を守り、盛り上げたい~
2024.02.21
Vol.113
~学問という知的な武器を子どもたちに。学びの体験をアップデートして日本を変える~
2024.01.19
Vol.112
~庭師として素晴らしい日本文化を守り、次の世代へと伝えていきたい~
2023.12.21
Vol.111
~いつだって新しい人に出会いたい。シンプルな好奇心が新たな交流を生んだ~
2023.11.21
Vol.110
~自分が飲みたい日本酒で世界に挑戦し、日本酒業界に革命を起こしたい~
2023.10.20
Vol.109
~世界で一番愛される字を書きたい。世界を舞台に活躍する書道家へ~
2023.09.21
Vol.108
~ピアノや音楽をもっと自由に、多くの人が慣習にとらわれず楽しんでほしい~
2023.08.21
Vol.107
~未曽有の事態に直面して生まれた医療の新しいカタチ~
2023.07.21
Vol.106
~日本における医療の弱みはウェルビーイングの浸透で改善できる~
おすすめ記事
2023.04.21
SPECIAL TALK Vol.103
~個人の適性に見合った教育で日本の変革を目指したい~
2015.08.17
決戦は2軒目!接待の切り札になるバー6店
2016.10.17
彼が言うなら間違いない!松岡修造が伝授する“デキる人”になるための10ケ条
2016.02.01
中国ビジネス関係者必携!日本で唯一の中国歳事が全網羅のカレンダー登場
2023.08.16
ハラスメント探偵~解決編~
ランチに食べていた“あるもの”の臭いが物議に。果たして、悪臭はハラスメントになる!?
2016.05.19
この手があった!1か月超ステイなら高級サービスアパートメントという選択肢
2015.05.22
千寿に萬寿!レアな久保田を飲み比べできる 直営店が銀座にオープン!
2015.08.10
話題の企業の仕掛人たちがリアルに通い詰める常連店8選
2023.08.16
ハラスメント探偵~通報編~
会社の休憩室で、ある食べ物を食べていた29歳男性。突然、女性社員に叫ばれ、戦慄の事態に!
2016.06.24
MBA医師と学力女王が贈る「圧倒的な勝ち組の最強の勉強法」講演会が開催!
東京カレンダーショッピング
『秋田かまくらミート』:秋田を代表するブランド牛「秋田由利牛」!サシの美しい上質なしゃぶしゃぶ用サーロイン
『肉のABCフーズ』:黒トリュフ塩付!牛タン&A5ランク黒毛和牛を使った極上ハンバーグ
『パンツェロッティ』:具材ごろごろボリューミー!フレッシュな野菜と肉感満載のフライドピッツァ
『HAL YAMASHITA 東京』:シルクのようななめらかさ!冷え冷えトロリの新食感"ウォーターチョコレート"
『レザンファンギャテ』:しっとりと濃厚で、コクのあるニューヨークスタイルのチーズケーキ
『ル・ボヌール 芦屋』:しっとりサクサク!フリーズドライ苺にホワイトチョコをたっぷりと浸透させた新感覚スイーツ
ロングヒット記事
2024.04.23
今日、私たちはあの街で
3回目のデートで、終電を逃した28歳女。翌朝、男が激しく後悔したワケ
2024.04.23
Editor's Choice~fashion~
最大10連休のGWのお出かけに!カラフルなミニボストンバッグが、万能な理由とは?
2024.04.25
Editor's Choice~beauty & wellness~
すれ違ったときに香るぐらいが好印象!大人のニオイ対策には、上質なランドリーアイテムを取り入れて
2024.04.26
大人の週末ToDoリスト
GWは東京でヨーロッパ旅行気分! 『イタリア展 2024』や『フランス展 2024』などイベント3選
2024.04.28
Editor's Choice~gourmet~
最高に気持ちいい空間で、ラグジュアリーな外飲み体験!今から楽しめるビアガーデン6選