SPECIAL TALK Vol.103

~個人の適性に見合った教育で日本の変革を目指したい~

金丸恭文氏 フューチャー株式会社 代表取締役会長兼社長

大阪府生まれ、鹿児島県育ち。1989年起業、代表取締役就任。


正解がない時代だから、プロセス重視の教育を


金丸:サコさんは関西弁も流暢ですが、日本語を学ぶのに苦労はしませんでしたか?

サコ:苦労しましたよ。京都大学の大学院に通うことになり、日本でやっていくなら日本人と同じ舞台で勝負しないといけないって思ったんです。今となっては勝手な思い込みなんですけど、日本語で論文を書いて、日本語で研究しようと。

金丸:想像しただけでも、すごく大変じゃないですか。

サコ:大変でしたよ。最初のうちは本を1冊読むのも何週間、下手すれば1ヶ月かかりました。でも、お客さん扱いされるのは嫌だったので、研究室の飲み会にも積極的に参加して。私はお酒を飲まないので、割り勘だとかなり割高でしたけど(笑)。

金丸:サコさんの飛び込む力はすごいですね。それを図々しく感じる人がいるかもしれないけど、飛び込むというのは、自分が変わることも恐れない。それって、ほとんどの日本人が持っていないマインドだと思うんです。

サコ:私は、日本にはすごいポテンシャルがあると思っています。これまでかなりのスピードで国を発展させ、経済を世界トップクラスまで大きくしてきました。ただ現在の、個人が自由に考えて行動を起こす「個人中心の時代」には、適応できていないと感じています。

金丸:高度経済成長やバブル時代って、集団の力で成し遂げたものなんですよね。だけど、同じ方法が通用しなくなったときに、日本は違う方法を試すのではなく、変われないままくすぶっている。

サコ:能力の高い個人がいても、それを生かすような場所や環境が整っていない。いまだに同調圧力も強い。それを打ち破ろうと呼びかけても、大人はもう変われないと思うんですよ。だから、子どもたちを教育者が求める枠にはめるのではなく、本人の適性や本人がやりたいことを伸ばす教育に、根底から変えていかなきゃいけません。

金丸:日本の教育は、子どもの「やりたい」を封じ込める方向ですからね。

サコ:子どもって、本来は好奇心旺盛だし、誰もが自分で考える力を持っています。たとえば小学校低学年の子どもたちは、私を見ると「なんでそんなに黒いの?」って聞いてきます。私は「テニス焼けだよ」と答えます(笑)。

金丸:面白い(笑)。

サコ:すると、子どもたちは「うちのお父さんもテニスしてるけど、そんなに黒くないよ」って。そんなやり取りをしていくうちに、テニスだけでここまで焼けないだろうと疑いはじめ、こんな肌の色の人種が世の中にいることに気づく。そういう、時間はかかるけど、プロセスを大事にした教育に切り替えていかないと。

金丸:日本の教育は、さまざまなプロセスを経て答えを導き出すよりも、正解を数多く暗記して早く解答することが「正しい」とされています。でも現実社会では、正解はひとつとは限らないし、正しいやり方なんて誰にも分からない。複雑な課題がどんどん出てくるわけですから。

サコ:学長の任期を終えた今も、大学に残って教えていますが、この56年間で得た経験をこれからどう生かすかを考えると、このまま大学に残ることが正しいのだろうか、と考えてしまいます。

金丸:サコさんほどの行動力や決断力があれば、違う立場でもきっとご活躍されるんだろうなと思いますよ。

サコ:京都精華大学ではいろいろな改革に取り組みましたが、それだけでは社会は変わりません。日本がチャレンジ精神を持てないのは、自信を失っているからです。このまま変化を拒み続けていると、国内でしか競争しなくなるし、いずれとても排他的な国になってしまいます。私はそんな日本は見たくない。そのために自分にどんなことができるかを考えて、実行していきたいです。

金丸:日本社会の中でも、大学はかなり変化を嫌う組織だと思います。そこで大きな変化を起こしたサコさんには、これからも日本をよくするために精力的に活動してくださるのではないかと期待しています。今日はお忙しいところ、本当にありがとうございました。

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