松坂由里香の奇妙な婚活 Vol.1

松坂由里香の奇妙な婚活:お泊まりデートの翌日。男は先にベッドを抜け出し、女の目を盗んでこっそり…



「…で、そのまま男の家から早朝のオフィスに出社…ってわけですか。えーと由里香さん、今いくつでしたっけ?」

呆れた顔でそう聞いてきたのは、隣のデスクの星野祐太だ。


「30歳、になったところ」

「ですよね。まったく、いい大人が何やってるんですか」

「仕方ないじゃない!婚活は始めたばっかりで、普通の恋愛とは事情が違うんだから」

「事情ねぇ」

メタルフレームのメガネ越しに投げかけられる、星野の冷ややかな視線。その無言の非難を痛いほどに感じながら、由里香は反論の声をあげた。

「星野くんだって知ってるでしょ。私、今までの恋愛はダメ男ばっかりだったんだもん。だからパーフェクトな結婚をするために、恋愛感情に振り回されないで、条件ありきで婚活をしてるの。

32歳。年収1,400万。下から暁星育ちのおぼっちゃまで、大学は早稲田。都内中小企業の3代目になるべく、ただいま大手商社で武者修行中…。

ほら。これって、婚活市場ではいわゆるハイスペの優良物件でしょ?」

結婚相手としては疑いようのない好条件。そんなタカシとアプリでマッチングしたときには、「この人こそパーフェクトな結婚相手かも」と、確信めいたものさえ感じたのだ。

「1回目のデートは『たきや』で天ぷら。2回目は、シミュレーションゴルフで遊んで、『タイトル アッシュ』でたくさんワイン飲んで、いいムードで…。

そりゃ確かに、アプリで出会ってるし、まだお互いのことはそんなに知らないよ?でも、結婚願望があることは前提なんだし『この人かも』って考えちゃうじゃん」

「で?その、『この人かも』って思えるような男が、一体何してたっていうんです?そんなに怒って」

星野の言葉に、由里香は、今朝の男の行動をまた思い起こす。

「そう!聞いてよ星野くん。ほんとありえないんだから!」



「うそでしょ…。ねえ、一体何してるの?」

早朝のリビングで、コソコソと背中を丸めるタカシ。その後ろ姿に声をかけると、タカシはビクッとして由里香の方を振り返った。

「あ、由里香ちゃん。朝早いね。おはよう」

「何してるのって聞いてるの」

つかつかと歩み寄り、タカシの手元を確認する。

手に持っているのは…由里香の財布だ。

タカシはその中から免許証を勝手に取り出し、差し込む朝日に照らし、まじまじとチェックしていたのだった。


信じられない光景に、由里香は目を見開いたままタカシを見つめる。

タカシはしばらくの間黙り込んでいたが、ふと、ふっきれたように笑顔を浮かべ、開き直って弁明を始めた。

「いや、勝手に財布を漁ったのはごめん。でもさ、僕の特殊な事情、知ってるよね…?」

「特殊な事情?」

怪訝な顔を浮かべる由里香に向かって、タカシは諭すようにつらつらと言葉を続ける。

いずれは家業を背負う立場になること。

会社の業績がよく、業界でも注目を集めていること。

これまで自分に寄ってきた女の子は、“社長夫人”という立場に憧れる、お金目当ての子が多かったこと…。

「だからさ、由里香ちゃんはそんな子じゃないとは思うけど、お金目当ての得体の知れない子だと困るじゃん?

僕、本当に結婚したくて、アプリには正直にスペック書いてるからさ。由里香ちゃんも嘘ついてないか、モラルの低い子じゃないかどうか、早いうちに身辺調査させてもらいたいと思って」

タカシは悪びれもせず、照れ笑いのような笑みさえ浮かべている。

その言い分にじっと耳を傾けていた由里香だったが、ついに彼の足元にあるカバンを奪い取ると、ノートパソコンを取り出す。

「なるほど。自分はハイスペの優良物件だから、私の素性とモラルのレベルが釣り合うかどうかが知りたい…ってわけね」

そう言うや否や、由里香はGoogleの検索窓に『松坂由里香』と入力する。そして出てきた検索結果を、タカシの鼻先に突きつけた。

この記事へのコメント

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No Name
タカシ、泥棒かと思った😂
2022/10/24 05:2699+返信1件
No Name
どう考えても、人のお財布を勝手に漁ることの方がモラルの低い行動だよね。びっくりした。
タカシはかなりやばい奴だけど、むしろタカシの婚活奮闘を読んでみたい!笑
2022/10/24 05:2595返信2件
No Name
最終的には星野君と結ばれそう…♡
2022/10/24 05:4185返信4件
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