じゃあ、奪っちゃえば? Vol.1

じゃあ、奪っちゃえば?:「何考えてるの!?」食事会にしれっと参加する既婚男。婚活を妨げ大迷惑なのに…



月曜日。

会社の近くのレストランでランチついでに、凜は同期の彩香に、事の顛末を話した。

「うわー最低だね。元彼も食事会で出会った男も。凛、男見る目ないんじゃない?」

「そんな傷口に塩をぬるようなことを…。いいよね、彩香は彼氏と順調で」

最近、大手証券会社勤務の彼氏と婚約したばかりだという彼女の薬指で、『カルティエ』のソリテールリングがまばゆい光を放っている。

その神々しい輝きはまぶし過ぎて、今の凛は直視できない。


「ねぇ!彼氏の友達で、フリーの素敵な人とかいない?」

「前にも聞いたことあるんだけど、いないって。彼女もちばかりみたい。凛こそ、大学時代の知り合いとか社内とか、誰かいないの?」

凛も、フリーになって以来、自分の人脈を総ざらいしてみた。だが、高学歴で人並み以上に稼ぐ彼女の周りには、彼女や奥さんがいるなど、“売約済”の男性しかいない。

不服そうに「いない…」と答える凛に、彩香は確信をついた。

「まあね。確かに男性は、高学歴・高収入ほどモテるけれど、女性は逆にモテなくなるよね。そのうえ相手にも同じくらいの学歴や収入を求めるのなら、なおさら。東京でフリーのハイスペ男子なんて、ツチノコ並みにいないんじゃない?」

“ツチノコ並み”だったら、つまりは皆無ではないか、と凛は軽く絶望する。けれど彩香が言うように、そんな未確認生物レベルの希少価値の高い男性が、この東京にどれだけ生息しているのだろうか?

凛が青ざめた顔で硬直していると、そこに他部署の涼子が通りかかった。

「あ、凛ちゃん。どうかした?この世の終わりみたいな顔をしてるけど…」

涼子は、凛が入社直後に配属された部署の上司で、今は公私ともに凛のよきアドバイザーだ。38歳には見えぬ美貌と肌艶を持ち、妖艶な色香を放つわりに、中身は意外と男っぽい。

5年前に社内結婚をした際には、全社員が泣いたと冗談半分に言われているが、いまだに男女問わず彼女のファンは多い。

「実は凛、最近フラれた彼氏が実は二股をかけていたらしく、もう一人の女と授かり婚していたことを知って…」

彩香が説明するのを遮るように、凛は「そうじゃない…」と頭を抱えてつぶやいた。

「素敵なフリーの男性を見つけるのが、こんなにも難しいってことにショックをうけてるんです。

勉強だって仕事だって、今まで頑張ってきたのに…。女性はそのせいで相手が見つからないなんて、世の中ひどくないですか!?」

凛は“女性も自立を”という教育方針の下、幼い頃から勉強に励み、今の経歴を手に入れた。だがそのせいで、恋愛相手に求める条件が厳しくなってしまうという現実に直面している。

お茶を飲んで、酔ったように絡む凛に、涼子は優しく微笑んだ。


「それは、素敵な相手はもう売約済ってこと?」
「そうです…」
「そう。なら、奪っちゃえば?」

さらっと爆弾発言を落とす涼子に、凛は目を丸くした。

「え、奪う…?」
「そう、略奪恋愛。でも、既婚者と婚約者ありの人以外でね。あくまで彼女がいる人ってこと」
「え、だとしてもそれって…」

「モラル的にどうなんでしょう…」と言いかける凛に、涼子は躊躇なく言い放つ。

「実は私と夫も、始まりは略奪恋愛だから」

純粋な瞳で「何か問題?」とでも言いそうな表情を浮かべた涼子に、凛は「もしかして自分の考えが古いのだろうか?」などと考えてしまうのだった。


▶他にも:「え、そんなことで離婚したの?」35歳女が、浮気よりも許せなかった夫の生活習慣とは

▶︎NEXT:9月11日 日曜更新予定
凛は、涼子に誘われて行った高級ジムで、理想の男性と出会ったが…

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