― イイ男はすでに売約済み ―
婚活戦国時代の東京で、フリーの素敵な男性を捕まえるなんて、宝くじに当たるくらい難しいと言っても過言ではない。
待っているだけじゃ『イイ男』は現れない。
超絶ハイスペックな男性が寝顔に惚れ、キスで目覚めさせてくれてゴールイン…なんて、おとぎ話もいいところ。
現実は、うっかり寝ている間に誰かにさっさと取られてしまう。
これだと思う人を見つけたら、緻密な戦略を立ててでも手に入れる価値がある。たとえその人に、彼女がいても…。
「間に合った…」
金曜日の日比谷線。
タクシーが捕まらず、なんとか六本木から中目黒方面の終電に乗った凛は、安堵のため息を漏らす。
ホッとしたのも束の間。
先ほど『華都飯店/アークヒルズ仙石山森タワー』で行われた食事会で出会った男のことが脳裏によみがえり、怒りが沸々とこみ上げてきた。
その男は、33歳の医者。
自信がありコミュニケーション能力も高く、大人の余裕がある。話も弾み、凛は彼が自分に興味を持っていると肌で感じた。
「凛ちゃん、場所移してさ、2人で飲まない?」
そう言って、さっと近くの素敵なバーに連れ出してくれたところにも好感が持てた。この人となら…そう思えた時、彼の方から突然キスをしてきた。そして甘い空気に包まれた中、彼は言った。
「俺さ、一応結婚はしてるんだけど、うまくいってなくて…。それでもよければ、このまま朝まで一緒に過ごさない?」
あまりにも悪びれずに言うその脳内花畑男に、凛は「は?“一応”って何?良いわけがないでしょ!?」と怒りをあらわにして店を飛び出したのだった。
「あぁ、もう!あいつの頭の中の花、全部むしり取ってやる!」
悪態をつきながら、東京でいい男と出会うことの難しさに泣きそうになる。
凛は3ヶ月ほど前、4年間付き合った大手商社マンの彼氏にあっさりとフラれてしまった。
慶應大学卒で外資大手IT企業勤務の凛にとって、結婚がすべてではない。それでも30歳という年齢に、焦りを感じている。
だから、悲しみに暮れている暇もなく、最近出会いを求めて食事会に参加しているのだ。
そして今日。久々にちょっと良いかな、と思える人に出会えたと思ったのに、これだ…。